低栄養は必要なエネルギーや栄養素が不足した状態をいいます。
高齢者は食欲が低下したり、義歯の不具合などで噛む力が弱まったりすると、低栄養に陥るリスクが高まります。
今回は事例を紹介しながら、低栄養のリスクと改善方法をお伝えします。
※「1週間分の10食品群チェック表」をダウンロードできます
この記事でわかること
- 低栄養のリスク
- 低栄養の判断基準
- 簡単な低栄養の改善方法と予防方法
食が細くなった父親
75歳の父親を介護する娘さんから相談のあった事例です。
相談内容
半年ぶりに帰省すると、父(シゲルさん)がかなり痩せていて驚きました。母(サチコさん)に聞くと、最近は元気がなく、食べる量が減っているとのことです。外出が億劫になり、趣味だった散歩や囲碁教室に行かなくなっていました。物忘れや言い間違いも増え、認知症なのではと心配です。
低栄養チェックをしてみよう
「もしかして低栄養?」と心配な高齢者が身近にいたら、以下の項目をチェックしてみましょう。
- 体重が減った
- 握力が弱くなった
- 風邪をひきやすい
- 傷や褥瘡(じょくそう)が治りにくい
- 歩幅が狭く、歩く速度が遅い
- 転びやすい
- 「疲れた」と言うことが増えた
- 顔色が悪い、表情がない、頬がこけた、目がくぼんでいる
該当する項目が多いほど、低栄養のリスクが高い状況です。
相談のあったシゲルさんは①⑤⑥⑦が該当しました。
半年で体重が5kgも減っていた
さらにシゲルさんの様子を詳しく聞くと、次のようなこともわかりました。
- 菓子パンやカステラなど、柔らかい食べ物を好む
- 毎回食事を半分以上残すので、最初から少量にしている
- 起床時間が遅いので、食事は1日2回になっている
- 入れ歯が合わず、使っていない
- 便秘がち
- 半年で体重が5kg減少している(身長165㎝、体重50㎏)
- 物忘れや勘違いが多い
シゲルさんの変化にサチコさんは心配し、病院に行こうと何度も誘っていました。そのたびにシゲルさんは強い拒否を示し、口論が絶えなかったそうです。
娘さんは地域包括支援センターへ相談し、次の日には職員が訪問してくれ、「健康診断」と称して近くのクリニックへ通院できるように手配することができました。
低栄養は体重の減少率・BMI・血清アルブミン値などで判断
低栄養の疑いがあれば放置せず、かかりつけの病院などの医療機関を受診できるようにしましょう。
体重の変化
体重が以下のような減少であれば、低栄養が疑われます。
①6カ月間に2~3kg減少
②1~6カ月間の体重減少率が3%以上
【計算方法】
体重減少率=(通常の体重ー現在の体重)÷通常の体重×100
シゲルさんの体重は6カ月前が55kgだったのが現在は50kgです。
体重の減少率は9.1%となり、①②ともに該当しています。
BMIが20以下は要注意
BMIとはBody Mass Indexを略した言葉で、体格を示す指数です。
高齢者は20以下になると低栄養のリスクが高くなります。
計算方法→BMI=体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))
シゲルさんはBMIが18.4だったので20以下となり、低栄養のリスクがあります。
血清アルブミン値
血液中にアルブミンと呼ばれるタンパク質が存在し、3.8g/dl以下になると低栄養の可能性が高まります。
シゲルさんのアルブミン値は3.6g/dlで、基準以下でした。
Memo
アルブミン値は栄養状態以外でも変動するため、「低い=低栄養」ではありません。低栄養の判断は、体重の変化や血液検査値など、さまざまな検査結果と食事の状況を総合的に見ることが大切です。
シゲルさんの低栄養改善対策
シゲルさんは医師から低栄養と判断されました。
低栄養に陥った要因を改めて考え、改善策に取り組みました。
生活リズムの見直し
起床時間を早めようとサチコさんが働きかけますが、身内だからか拒否が強く、うまくいきません。
【対策】
生活リズムが整うまでは介護保険サービスの訪問介護を利用して、ヘルパーさんに起床から着替え、トイレへの誘導、洗顔までを任せることにしました。元気な男性ヘルパーが週5日来てくれることになり、シゲルさんは孫のように感じたのか、機嫌よく起きるようになりました。
歯の治療食事の見直し
シゲルさんは1日の総カロリーが低く、義歯の不具合から菓子パンなど柔らかいものを好むため、栄養バランスが偏っていました。
【対策】
訪問歯科の治療を受けることにしました。義歯の調整が済むまでは硬いものや食物繊維類が食べられないため、しばらくは栄養補助食品のカロリーが取れるドリンクを1日2本と粉状のファイバーを取り入れることにしました。
水分摂取量を増やす
シゲルさんはトイレまで歩くのが億劫なので、水分を控えていました。1日に飲み物として摂取していた水分量は1,000mlに満たず、食事から摂れる水分量も減っていたので、軽度の脱水症を起こしていました。
【対策】
1日の水分摂取量がトータル1,500ml以上になるように、計画的に水分を摂るようにしました。
水分を増やすと顔つきがしっかりし、昼間の居眠りも減る効果がありました。
認知症かと気になっていた物忘れや記憶違いもなくなり、サチコさんと娘さんは心底ホッとしたそうです。
デイサービスを利用し活動性アップ
シゲルさんは活動性が低く、ほとんどの時間をソファに座って過ごしていました。ぼんやりしていることが多く、腰も丸まることから腰痛も悪化していました。
【対策】
介護保険サービスのデイサービスを週2回利用することにし、集団体操や個別に機能訓練を受けるようにしました。
2カ月後の変化
シゲルさんは義歯を調整したことから食物繊維の多い食事も噛めるようになり、体重が2kg増えました。便秘も自然と解消し、安定した体調を維持できています。朝7時の起床が習慣化したので訪問介護の利用は終了し、デイサービスでは囲碁仲間ができたこともあり楽しんで通っています。
カロリーの高いドリンクは食事があまり食べられなかったときに、補助的に飲むようにしました。
低栄養の予防はこうする
低栄養の予防は以下のことを日常生活の中で注意していきましょう。
- 1日3食きちんと食べる
食事量が少ない場合は栄養補助飲料やおやつで補いましょう。
- 定期的に歯科検診を受ける
義歯の調整や必要な治療を行い、噛む力が衰えないようにしましょう。
歯や口腔を良い状態で維持していくと「むせる」ことも減り、誤嚥性肺炎のリスクも軽減します。
Memo
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)は、食べ物や唾液が誤って気管に入ることで、肺に細菌が侵入して炎症を起こす病気です。
- 定期的に体重測定をする
毎月1日に体重測定など、あらかじめスケジュールの中に組み入れていくと良いかもしれません。体重が急に落ちることがないか、定期定期に観察していきましょう。
- バランスの良い食事ができているかチェックする
バランスの良い食事が摂れているかを、10食品群でチェックしてみましょう。
目標は1日7点以上です。
低栄養の心配があれば毎日チェックして、1週間トータルで確認すると欠けている栄養が分かりやすくなります。
1週間分のチェック表ダウンロードできます↓↓↓
まとめ
高齢者の低栄養は気づいたときにはかなり衰弱していることもあり、転倒や寝たきりに発展することも少なくありません。場合によっては認知症を疑うような様子も見られ、家族が動揺してしまうこともあります。
歯の不具合や食事量の低下は分かりやすいシグナルとなるので、問題があれば早めに対処していきましょう。
気になることがあれば地域包括支援センターへ相談し、介護保険サービスの利用で早期改善できることも多いので、積極的に活用していきましょう。