仕事と介護を両立することになったとき、「会社に迷惑がかかる」といった側面からのデメリットに気持ちが向きがちですが、実は企業に多くのメリットをもたらすことをご存じでしょうか。
現代社会では、高齢化が進む中で親の介護が必要になるケースが増えています。これに伴い、働く介護者が増加し、仕事と介護を両立させる必要性が高まっています。企業が仕事と介護の両立を支援することは必然となっており、個人にとっても企業にとっても大きく成長できるチャンスにもなります。
今回の記事では、「仕事と介護の両立」が個人や企業に与える影響について解説します。そして、働きながら介護をしていく経験が「個人」にとってどのようなメリットをもたらすのかも掘り下げていきます。
この記事でわかること
- 仕事と介護の両立を支援することで「企業」が得られるメリット
- 働きながら介護をすることで「個人」が得られるメリット
- 仕事と介護の両立する人材の必要性
仕事と介護の両立支援制度とは
「仕事と介護の両立支援制度」とは、働き手が仕事と介護を両立できるように企業が提供する支援制度のことです。この制度には、介護休暇や短時間勤務、テレワークの導入、介護に関する相談窓口の設置などが含まれます。これにより、介護が必要な家族を持つ社員が安心して働き続けることができ、企業も多様な人材を確保・維持することができます。
「企業・組織・職場」のメリット5つ
仕事と介護を両立することになったとき、「職場に迷惑をかけてしまう」と思い悩むことはよくあります。しかし、仕事と介護の両立は本当に迷惑なことばかりなのでしょうか。
実際には、企業が「仕事と介護の両立支援」に力を入れることで、次のようなメリットがあります。
企業のメリット1:有能な人材流出を防止できる
仕事と介護の両立が困難になると、介護離職(介護のために仕事を辞めること)や介護による負担で生産性が低下し、2030年には約9兆円の経済損失が見込まれると言われています。特に50~60代の管理職や経営層が介護の必要性に直面する可能性が高く、介護のために優れた人材が職場を離れるのを防ぐことが重要となります。
仕事と介護の両立支援制度を導入することで、従業員が安心して働き続けることができ、企業は有能な人材を維持しながら持続的な事業運営が可能になります。仕事と介護の両立支援は、個人のキャリアを守るだけでなく、企業のリスクマネジメントにもつながります。
企業のメリット2:仕事をシェアするきっかけになる
働きながら介護を行う従業員は遅刻・早退や急な休みが必要になることがあるため、仕事が共有されていないと業務自体が止まってしまいます。そのため、仕事が一人に依存しないように、チーム内での情報共有やタスクの分担(業務のシェア)が必要となります。
業務がシェアされていくと、新たなスキルや知識を習得する機会を得ることで成長が促され、チーム全体の能力が向上します。コミュニケーションも活性化され、チームワークも強化されます。
企業のメリット3:誰もが働きやすい職場になる
仕事と介護の両立支援制度を整えることで、介護を担う者だけでなく、多くの従業員が働きやすい職場環境に変化していきます。フレキシブルな働き方やワークライフバランスを重視する風土が育ち、従業員の満足度が向上します。
また、介護を担う従業員自身がサポートされていることを自覚でき、介護状況を開示しやすくなります。それだけでなく、さまざまな事情のある人が状況を開示・相談しやすい環境に変わることで、多様性を受け入れられる職場になっていきます。
勤め先のメリット4:従業員が企業へ「感謝の気持ち」を抱くようになる
企業が仕事と介護の両立支援制度に積極的に取り組むことで、介護を抱えた従業員は感謝の気持ちを抱くようになります。これにより、エンゲージメントが高まり、モチベーションも向上します。
例えば、仕事と介護の両立支援セミナーを開催することは、企業が全面的にサポートするというメッセージになりますし、「介護が始まっても働き続けてほしい」という意思表示にもなります。これらの発信は、先が見えない介護に対して安心感をもたらします。
Memo
エンゲージメントが高い職場とは、従業員が仕事や職場に対して強い愛着やコミットメントを感じている環境のことを指します。具体的には、従業員が自分の仕事に意欲を持ち、会社の目標達成に積極的に貢献しようとする姿勢が見られる職場です。こうした職場では、従業員の満足度や生産性が向上し、離職率も低くなる傾向があります。
勤め先のメリット5:「お互いさま」の意識が根付く
介護を担う従業員が働きやすくなることで、職場全体に「お互いさま」の意識が根付きます。介護だけでなく、従業員それぞれが育児・子育てや自分自身が病気を抱えている場合もあり、助け合いの精神が強化されます。
また、この支援体制は従業員の心理的安全性を高め、職場の信頼関係を深化させます。結果として、職場全体の生産性や満足度が向上し、企業にとっても大きな利益となります。
仕事と介護を両立する「個人」のメリット5つ
生産年齢人口の減少から、仕事と介護を両立する従業員は増加していく見込みです。2030年には家族介護者833万人のうち、約4割(約318万人)が働きながら介護を行うようになると予測されています。
仕事と介護の両立者を支援することは、企業にとって多くのメリットが得られると前述しましたが、介護を担う従業員にとっても良い影響をもたらします。
個人のメリット1:安心できる介護体制を構築できる
介護を必要とする人は、病状の急変や短期間で重度化するケースもあり、常に安定した状態を保てるとは限りません。地域によっては希望した介護保険サービスが利用できない場合もあり、その都度、働き方を調整する必要があります。
仕事と介護の両立支援制度を利用することで、働き方に関する相談や調整が可能になり、安心できる介護体制を構築できます。プロの介護サービスを活用しながら、企業からも適切なサポートを受けることで、介護者自身もストレスの少ない状態を維持できます。
個人のメリット2:疎外感を抱きにくくなる
仕事と介護の両立支援制度が整っている職場では、介護をしている従業員が疎外感を抱きにくくなります。企業から支援を受けることで、自分が大切にされていると感じ、孤立感が軽減されるのです。
とはいえ、介護のために遅刻や早退、急な休みが増えると、後ろめたさから退職を考えてしまうこともあります。そんなときは制度を活用して、どうすれば良いかを適切な人に相談し、働き方を見直していきましょう。
個人のメリット3:仕事のパフォーマンスを維持できる
介護は突発的な事態が多く、常に同じパターンで対応できるわけではありません。フレックスタイムや在宅勤務の導入、短時間勤務制度の活用など、企業が柔軟に対応することで、従業員は介護に時間を割きながらも業務への集中を維持できます。
この柔軟さは企業によって差があるため、相談窓口や理解の深い人事担当者など、「安心して相談できる人」や「答えを出してくれる人」を見極めて相談するようにしましょう。
個人のメリット4:介護によって学んだことを、職場で活かせる
介護は人を介して成り立つものであり、その関係性は深いものになってきます。これにより、コミュニケーションスキルが自然と向上します。
さらに、介護というプロジェクトの指揮を担うようになり、介護関係者との連携や知識・技術についても経験から学ぶことが多くなります。
また、介護は老いていく親に寄り添う中で、さまざまな葛藤が生じるかもしれません。残り少ない時間で交わす会話の尊さや、弱っていく親を目の前にした寂しさを感じることもあるでしょう。これらの感情の揺れが人を成長させ、人間としての深みを増していきます。介護経験を通じて得たスキルや知識を職場でも生かすことで、より豊かな人間関係を築き、業務効率を向上させることができます。
個人のメリット5:親の介護への関わり方を、子どもに見せられる
仕事と介護を両立する姿勢を子どもに見せることは、次世代にとって重要な手本となります。身近な家族介護を通じて、責任感や思いやりの姿勢を示すことで、子どもたちはその価値観を自然に受け継いでいきます。
さらに、介護は「自分が行ったことは、やがて自分に返ってくる」と言われています。これは、責任感や価値観が受け継がれた結果とも言えるでしょう。仕事と介護をどう両立し、どのような介護を行うかは、将来の自分が受ける介護の姿かもしれないという思いを、心の片隅に置いておくことも大切です。
仕事と介護の両立はメリットだらけ(まとめ)
仕事と介護を両立することは、個人にとっても企業にとっても多くのメリットがあります。
【企業のメリット】
- 有能な人材流出を防止できる
- 仕事をシェアするきっかけになる
- 誰もが働きやすい職場になる
- 個人が企業への「感謝の気持ち」を抱くようになる
- お互い様の意識が根付く
【仕事と介護の両立者、個人のメリット】
- 安心できる介護体制を構築できる
- 疎外感を抱きにくくなる
- 仕事のパフォーマンスを維持できる
- 介護によって学んだことを、職場で生かせる
- 親の介護への関わり方を、子どもに見せられる
このように、仕事と介護を両立することは、企業も個人も成長する機会となり、これからの社会を支えていく意味ではとても重要なこととなります。さらに、介護を通じて培ったスキルや経験は、個人の成長に留まらず、企業にとっても貴重な財産となります。
働きながら介護をすることにデメリットなどなく、企業や個人にとってメリットしかありません。仕事と介護の両立がしやすい世の中にしていくために、積極的に制度を利用し、親と過ごす最後の時間を大切にできるようにしていきましょう。