認知症を発症した親の介護をする家族から、悲痛な声を聞くことがあります。
「介護で常にイライラしている、限界だ」
「認知症だから仕方ないと思うけど、親が自分勝手で頭にくる」
「また怒鳴ってしまった、悪いと思うけど我慢できない」
頑張っているからこそ、思い通りにならない現実に感情が振り回され、強いストレスを感じることがあります。
感情をコントロールしつつ、上手に親の認知症介護に向き合うにはどうすればよいのでしょうか。
今回の記事は「認知症の親と離れて暮らす家族」の視点から、気持ちの変化をたどっていきます。
認知症?と疑ったとき、一気に不安に
高齢になった親の言動がおかしくなったとき、「もしかして認知症では?」と疑いを持つことがあるかもしれません。そう思うと不安が一気に高まり、どう対処すればよいのか悩むこともあるでしょう。
不安のきっかけは些細なこと
仕事中に1人暮らしの母から電話が掛かってくる。最初は3.4日おきぐらいに「家の鍵がなくなった」と不安気に言ってくる。「よく探して」と伝えて電話を切るが、心配なので仕事が終わってから再度連絡を入れると、「鍵なんかなくしていない」と言う。変だな?と思いつつ、そそっかしい母だから大丈夫だろうと思い直していた。
親の言動におかしいと思いながらも、「うちの親に限って」「きっと大丈夫だろう」と不安を打ち消してしまうことがあります。これは正常性バイアスともいえ、親の異変を見逃してしまうことになるかもしれません。
Memo
正常性バイアスとは
不安からのストレスを回避するために、危険や異常な状況を過小評価し、楽観的に考えてしまう心理的傾向のこと
認知症について調べ出し、不安が大きくなる
母から電話が1日に何度もかかってくることがある。近所の人が家に入ってきて、しょうゆを盗んだということもあれば、頭がモヤモヤすると言うこともある。ネットで認知症のことを調べると、何となく母の症状と合致する気がした。
それからは、徘徊(はいかい)して行方不明になったらどうしよう、振り込め詐欺にだまされたら、火事や事故を起こしたらどうしようなど、考え出したら眠れず、仕事も手に付かない。
同居や近所に住んでいれば、直接親の安否や様子を確認できますが、気軽に行けない距離の場合はそうもいきません。電話で話すことが唯一の確認手段になる場合もあり、それだけの情報では安心を得ることはできません。不安は大きくなる一方で、生活や仕事に影響を及ぼしていきます。
仕事を休んで帰省する
一時的な帰省では認知症と思われる症状が見られなかったり、家族の刺激で気持ちがしっかりし、問題が表面化しないこともあります。
認知症を疑ったときは本人の様子だけでなく、同じものをたくさん買い込んでいないか、高額な布団や不要な通販の購入がないか、生活費や日常生活の管理ができているか、室内や衣類は清潔さを保てているか、適度に入浴しているかなど、身の回りのことも確認してみましょう。
「いつもと何が違うか」「何に異変を感じたか」など、気付いたことをメモしておくと、第三者への相談に役立ちます。
感情のコントロールができず、母を怒鳴ってしまった
親子関係は他人とは異なり、遠慮がないことから感情がむき出しになりやすいです。特に認知症介護になると、これまでの親子関係が逆転し、子が親に言い聞かせたり、行動を制御する場面が増えるかもしれません。このような立場の変化に対しては、親も子も感情のコントロールが難しくなっていきます。
このような介護状況が続くと、優しくできないことで自分を責めたくなることがあります。しかし、必要以上に自分を責めると、さらにストレスが増し、介護が一層困難になるかもしれません。
大切なのは、自分の感情を認め、受け入れることです。感情を抑え込むのではなく、適切に表現する方法を見つけることが重要です。また、自分も傷ついていることを理解し、その感情を大切にすることも必要です。
毎週末の帰省が辛く、仕事を辞めるか悩む
遠距離介護の負担が重くなると、心身ともに疲労し、ストレスも大きくなります。気持ちに余裕がなくなり、仕事を辞めて介護に専念するといった極端な判断に振り切れやすくなります。
介護離職(介護のために仕事を辞めること)という大きな決断をする前に、仕事と介護を両立している場合は、以下のことをチェックしてみましょう。
- 会社の上司や人事担当者に相談しているか
- 勤め先の仕事と介護の両立支援制度を調べているか
- 地域包括支援センターに相談しているか
これら3つのことについて行動を起こしていないようであれば、まずは一歩踏み出してみましょう。
病院を受診し、ケアマネジャーのサポートを受ける
本来であれば「認知症?」と疑いを持った段階で、地域包括支援センターへ相談に行っていれば、毎週末帰省せずに母親の生活を安定させることができたかもしれません。
高齢者の総合相談窓口である地域包括支援センターを知るか知らないかで、介護の初動に抱える不安や労力は大きく変化します。
高齢な親に不安を感じたら、迷わず地域包括支援センターに相談しましょう。
仕事を継続し、帰省の回数も減らせた
介護サービスを導入し、食事や水分摂取量、生活リズムの改善や体力を向上させることで、認知症の症状が軽減しました。多くの介護関係者が関わることで見守る目が増え、離れて暮らす家族にとって安心できる体制に整えることもできました。
まとめ
家族の立場で常に平常心を保ち、介護を続けていくことは不可能なことです。特に認知症の家族介護は、日々の変化や予測できない行動に対応する場面もあり、精神的にも肉体的にも大きな負担がかかります。
一人で抱え込まず、介護保険サービスを通じてケアマネジャーや介護の専門家を積極的に頼り、介護の負担を分散させていきましょう。また、自分の感情を否定せず、時には弱音を吐くことも大切です。介護は決して一人で完璧にこなすべきものではなく、周囲のサポートを受け入れる力も必要です。