「歩く」という動作は全身運動であり、血流を改善して脳を活性化することから、認知症にも良い影響をもたらします。
今回は認知症の落ち着かない症状を改善する運動、「歩く」ことについて解説していきます。
この記事でわかること
- 「歩く」ことで介護のお困りごとが解決する
- 認知症の症状改善には「歩く」運動が必要不可欠である
- どのくらい「歩く」のが効果的か
「歩く」は生活の基本
高齢者の運動と言えば、ストレッチや筋力トレーニング、バランス訓練などがありますが、認知症の方には「歩く」ことが一番効果的な運動となります。
日常生活は「歩く」ことで成り立っている
高齢者の自立した生活には「歩く」ことが欠かせません。
例えば、食事をするためには食卓まで行く必要があり、排せつであればトイレ、入浴であれば浴室まで歩いて移動しなければなりません。
日常生活はすべて「歩いて移動」することにつながっています。
排せつの問題は歩ければ解決する
在宅介護でトイレまで歩けなければ、ベッドの横にポータブルトイレを置くかオムツを使用することになり、介助も必要となります。
歩けるか・歩けないかによって介護者の負担は大きく変わり、介護を受ける方にとっても行動範囲の広がりや活動的な生活にも大きな影響を及ぼします。
「年だから」歩けないと決めつけない
高齢になるとさまざまな理由で歩けなくなりますが、「年だからしょうがない」と歩くことを諦めてしまうことがあります。
これは「年だから」歩けないのではなく、適切な歩行練習を行っていないために歩けなくなるのです。
歩行能力は年齢に関係なく再獲得できる可能性があります。介護保険サービスなどを活用し、「歩く」ことにチャレンジできる機会を作っていきましょう。
認知症であれば運動は「歩く」がBest!
認知症の場合は「歩く」ことが症状の改善に効果を発揮します。
体の動きと認知症の関係
高齢者は「寝たきりになると認知症になりやすい」と言われています。逆に「よく歩くと認知症になりにくい」という研究結果もあり、歩行と認知症の関係を意味づけていることがわかります。
さらに「歩く」動作は脳の血流と酸素供給を改善し、認知能力の向上につながります。
歩くと「アセチルコリン」が活性化
神経は電気信号を使って、体中の細胞に「寒い」「暑い」などの情報を伝達しています。その際に「アセチルコリン」という物質が重要な役割を果たします。アセチルコリンは心臓や内臓を動かす筋肉のほか、記憶や認知機能も司り、「脳の司令塔」と呼ばれる「海馬(かいば)」の動きにも大きく関係しています。
このアセチルコリンは「歩く」だけでも活性化します。
特に散歩やウォーキングが効果的
認知症の症状改善にはシンプルに「歩く」だけで十分効果的ですが、外出して歩くことは特におすすめです。
外を歩いていると、多くのことに注意を払う必要があります。視覚や聴覚をフル活用しながら車や自転車を避け、人とすれ違うときは気遣いながら道を譲ったりします。
足の裏から伝わる感覚を感じ取り、姿勢のバランスも調整しています。
「いい天気だ」「風が気持ちいい」「花が咲いている」「今日は寒い」など、常に感性も刺激されます。
「歩く」ことは脳や心を刺激し、適度な運動負荷もかかるので、刺激の多い全身運動ともいえます。
認知症改善にはどのくらい歩く?
認知症に良い効果をもたらすためには、2km程度のウォーキング(散歩)を週3~4日行うことをおすすめします。時間にして20~30分程度の距離です。
歩く自信がない場合は、歩行器を使用したり、途中に休憩を挟みながらゆっくりと歩きましょう。
頑張りすぎて疲れるよりは、「まだ余裕があるな」程度で十分です。無理せず長続きすることを目指してください。
転倒のリスクを避けるための準備
安全なウォーキング(散歩)を続けるためには、準備が必要です。
意識をしっかり引き上げておく
体内の水分が足りないと意識が「ぼんやり」した状態となり、転倒などの危険が高まります。
高齢者が1日に摂る水分量は1,500ml以上です。必要量の水分を毎日摂取する中で、散歩などを行いましょう。
安全な靴を履く
靴底の凹凸がしっかりあり、足のサイズにフィットした靴を履きましょう。靴が緩いと足首が安定せず、後ろに蹴りだす力も弱まります。さらにつま先がそり上がっていると、つまずきにくくなります。
歩くスピードは無理せずゆっくりと
歩く速度は「普通」か「遅め」ぐらいがちょうどよく、無理に早く歩く必要はありません。徐々に体力をつけながら、スピードは調整していきましょう。
長距離を歩くのに不安があれば、座面がついている「座れる歩行器」がおすすめです。
大切なのは続けることなので、体や気持ちの負担にならない程度に行いましょう。
まとめ
自立できることを増やすには「歩く」ことが重要なポイントとなります。歩ければ行動範囲も広がり、介護負担も軽減します。
散歩は週3~4日程度行うと良いのですが、介助が必要であれば家族だけで対応するのは難しいかもしれません。
介護保険サービスを利用したり、地域で取り組んでいるイベントなどを活用したりして、家族の負担を最小限に抑えながら運動の機会を増やしていきましょう。
認知症の症状を改善し、健康を維持するためにも、「歩く」ことを諦めずにチャレンジしていきましょう。