この記事では、認知症の落ち着かない症状(周辺症状)を改善できる「4つの基本ケア」を徹底的に解説していきます。実際に一部の特別養護老人ホームやグループホームで実践されており、効果のあるケア方法です。
今回の記事は「4つの基本ケア」を家庭でも実施できる内容にしてお届けします。認知症の家族介護でお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。
※最後に「4つの基本ケア」が家庭でも行える実践シートをダウンロードすることができます。
この記事でわかること
- 認知症に効果がある「4つの基本ケア」がわかる
- 「4つの基本ケア」の信頼性を知る
- 家庭での実践方法がわかる
大切なのはケアの見える化
ケアって見えるようにすることができるの?
家庭での介護は誰からも教わることなくスタートするので、「どうすればいいのかわからない」「これが正しいのかわからない」と悩む人が多いかもしれません。良くなったのか悪くなったのかも曖昧で、よくわからないまま介護は続いていきます。
例えば血圧の場合は、毎日記録することで良し悪しがわかるよね。
今回ご紹介する「4つの基本ケア」は簡単な計量や記録を行うことで、「ケアの見える化」を実現できます。行っているケアが見えてくると、この方法が良かったのか、悪かったのか、認知症の不安定な症状(周辺症状)が改善したのか、改善していないのかが明確になります。
ケア方法・記録ともにシンプルなので、ぜひチャレンジしてみてください。
認知症は「4つの基本ケア」で改善する
認知症介護で大変なのは、落ち着きのない不穏な症状=周辺症状(BPSD/行動・心理症状ともいう)が現れたときです。イライラと動き回ったり、怒りとなって表面化すると目が離せなくなり、介護負担が大きくなっていきます。
周辺症状が改善する「4つの基本ケア」とは
「4つの基本ケア」とは、以下のような内容です。
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- 1日の水分摂取量 / 1,500ml
- 1日の食事摂取量 / 1,500kcal
- 便秘の解消(定期的な排便)
- 1日2km程度のウォーキング / または30分程度の運動
これらのケアを日々行っていくと、認知症の不穏な症状(周辺症状)が改善していきます。
人によっては水分のケアだけでも、症状に変化がみられます。
介護施設で実践「4つの基本ケア」の驚くべき効果
「4つの基本ケア」は一部の特別養護老人ホームやグループホームで行われており、効果を発揮しています。
特別養護老人ホームって重度の人が多い施設よね。
そうだね、基本的に要介護3以上の人が利用できる施設だよ。
ある特別養護老人ホームでは、全入居者(80名)がオムツを使用していません。寝たきりの人でも入所当日からオムツを外して「4つの基本ケア」を実施するからです。「歩けなかった人が再び歩けるようになる」事例も多く、自立支援介護を実現できている施設です。
施設見学に行ったことがありますが、認知症の人も落ち着いて生活できており、夜間も含め不穏になる人はいないそうです。
グループホームは認知症の診断を受けた人が共同生活を送る施設よね。
グループホームを中心に運営しているある企業では、約3,700人の入居者を対象に「4つの基本ケア」を中心とした自立支援ケアを行いました。その結果、認知症の不穏な症状(周辺症状)の改善率が85%以上という驚きの成果を公表しています。
「4つの基本ケア」を行う施設はまだまだ少ないですが、確実に増えています。
取組みやすい方法家庭でもできるシンプルなケア
施設で行われているケアなら、家庭では難しい気がする。
「4つの基本ケア」は家族でも十分にできるケアで、本も出版されているよ。
ケアマネジャーを勤めていたころは家族介護者に実践してもらい、認知症の落ち着かない症状(周辺症状)が改善するケースを多く見てきたよ。
次からは「4つの基本ケア」の具体的な考え方や記録方法を説明していきます。
水分のケア|1日1,500ml以上
「4つの基本ケア」の中で、水分のケアは最も重要となります。
必要量の水分を摂ると脳が覚醒し、意識がしっかりしてきます。会話が成り立つようになったり、体の動きが改善したりと、変化を実感しやすいのも水分ケアの特徴です。
毎日必要な量の水分を摂っていれば、他のケアも実践しやすくなります。
症状改善には水分摂取がマスト1,500mlが必要な理由
人の体からは毎日2,400~2,800mlの水分が排出されます。失われた水分は、同じ量を補給しなければなりません。
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- 不感蒸泄とは、体温を調節するために皮膚や粘膜・呼気から蒸発する水分のこと。
- 代謝水とは、食べたものをエネルギーに変えるときに体内で作られる水分のこと。
注目してほしいのは体内に取り入れる水分です。
どの食べ物にも水分が含まれており、食事から摂れる水分量は700~1,000mlになります。食事からの水分と代謝水を合計すると900~1,300mlです。
体から出ていく水分が2,400~2,800mlなので、あと1,500ml足りません。だから、1日に1,500mlの水分を飲み物として摂る必要があるのです。
年代によって変わる水分蓄積量高齢者は脱水を起こしやすい
高齢者は体内に蓄積できる水分量が少なくなるため、脱水症状を起こしやすくなります。
なぜ、年を取ると体内の水分量が減るの?
理由は3つあるよ。
理由その①:筋肉量の低下
高齢になると2~3割も筋肉量が減るといわれているよ。
理由その②:腎機能の低下
腎臓の機能が低下すると、体内の水分調整が難しくなるんだ。
理由その③:感覚機能の低下
そういえば、父はあまりお茶を飲まなくなったような気がする。
喉が渇いている自覚がなくても、飲み物はマメに摂るといいよ!
水分が足りなくなるとどうなる?軽度の脱水でも認知症に悪影響
認知症の人は体内から1%の水分が不足するだけで、不穏な症状(周辺症状)が強まってしまいます。
500mlのペットボトル半分の量が足りなるなるだけで影響が!
水分不足で認知症の症状が悪化している場合は、シンプルに飲み物を十分摂取すれば落ち着いてきます。血流も改善するので顔色が良くなり、表情も穏やかに変化します.
実践してみよう水分のケアはこうする
最初に、普段摂取している水分量を計測してみましょう。いつも使っているマグカップや湯呑の容量をあらかじめ調べ、飲んだ量を記録していきます。
現在の摂取量が把握できたら、不足している量がわかります。1日1,500mlになるように水分摂取のスケジュールを立てましょう。
注意してほしいこと
- みそ汁やスープ類は飲み物に含まれません。これらは食事から摂る水分になります。
- 飲み物は何でもOK!ただし、甘い飲み物に偏らないよう注意しましょう!
- 糖尿病や利尿剤を服用している人は尿量が多くなるため、1日/1,800mlを目安にしましょう。
- 心不全や腎不全などで水分制限のある人、また他に持病がある場合は主治医と相談してください。
人によっては1,500mlでは足りず、2,000ml以上の水分摂取で不穏な症状(周辺症状)が改善することもあります。1,500mlは目安とし、必要であれば摂取量を徐々に増やしてみてください。
水分摂取 見える化のポイント
- 記録は認知症の症状が落ち着くまで続けてみましょう。
- 夜間のトイレが気になる場合は、午前中多めに、18時以降からは少なめに水分を摂るなど調整しましょう。
- 日々の生活が安定し、スケジュール通りの水分が摂れていれば、記録をやめても大丈夫です。不穏な症状(周辺症状)が増えるようでしたら再開してみましょう。
食事のケア|1日1,500kcal
毎日の食事量が「少ない」あるいは「偏り」があると、エネルギーや栄養不足から低栄養に陥りやすくなります。
低栄養は体力や運動能力を低下させるため、「食が細くなった」を見逃さないように、毎日1,500kcal程度の食事が摂るように心がけましょう。
歳のせいだと片付けないように!
要注意!認知症の人は低栄養になりやすい
認知症の人は以下のようなことから、低栄養になりやすい傾向にあります。
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- 意識がぼんやりしていることから活動性が下がり、食欲がわかなくなる。
- 感覚機能の低下から味を感じにくく、食事への興味や関心が薄れていく。
- 食べるペースが遅いと家族が「もう食べない」と思い、片付けてしまう。
食事の問題は認知症の人に多く見られます。
食事から摂れる水分も不足低栄養は認知症を悪化させる
食事からの栄養やエネルギーが不足すると、体を動かす力がなくなり、活動性が低下していきます。全身の筋肉が落ちて寝たきりになる可能性が高まり、ますます認知症が進行してしまうでしょう。
食事から摂れる水分も不足し、脳への血行が悪くなるのも認知症の症状悪化に影響します。
1日1,500kcalの食事となると、カロリー計算が大変・・・
そうだよね、こう考えてみるといいよ!
実践してみよう食事のケアはこうする
介護が必要になる前の、活動的に過ごしていた時期の食事量を基準に、さらにタンパク質やミネラル・食物繊維などを意識した食事を考えてみましょう。
それでも難しいようであれば、一定期間はカロリーが整ったお弁当を1日1食程度取り入れるのも良い方法です。
食事量がなかなか増えない場合は、栄養補助食品としてカロリーの高い飲料やゼリーなどを取り入れることもおすすめです。
食事摂取・見える化のポイント
食事量も毎日記録していきましょう。カロリーで記録するのは介護者にとって負担となるので、「全量食べれば〇」「半分なら△」「食べなければ✕」など、簡単で分かりやすい記録にしていきましょう。
便秘のケア|定期的な排便
認知症の落ち着かない症状(周辺症状)が「ときどき」強く表れる人は便秘が関連しているかもしれません。便秘は認知症の人にとって最大の敵と言っても過言ではありません、早急に対処する必要があります。
脳と腸は影響しあっている「脳腸相関」という考え方がトレンド
近年、研究が活発化している「脳腸相関」。脳と腸は離れている器官でありながら、互いにつながり作用し合っています。
精神的なストレスで腸が不調になったり、腸の不調から精神的なストレスを抱えたりすることがあります。このように脳と腸は相互に作用しており、それが認知症の症状にも影響を及ぼすことがあります。
父がときどきイライラしているのは、便秘が原因?
その可能性は大いにあるよ!
そうだったのか!便秘が認知症を悪化させる理由
食べたものは約24~72時間かけて消化・吸収され、便として排せつされます。
注目してほしいのは、肛門に近い部分の直腸です。直腸は便が移動してくると押し広げられ、それが刺激となり便意を感じます。
便秘になると硬い便が直腸に停滞し、自律神経を刺激し続けて興奮状態になってしまいます。
認知症であれば不快感から常にイライラや怒りが表面化し、この状況は便がスッキリ排せつされるまで続きます。このように、認知症の人にとって便秘は最も避けたいこととなります。
下剤は長期間使わないようにする薬に頼らない方がいい理由
下剤を服用していても排便がうまくコントロールできない例はわりと多いです。
認知症の人は下痢でも自律神経が刺激され、興奮状態から不穏な症状(周辺症状)に至ることも珍しくありません。
でも、便秘が長期間になるのも心配だし・・・
どうしても下剤を服用する場合は、以下のことに気を付けて!
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たっぷりの水分と一緒に服用してください。
下剤は便に水分を吸収させる役割があります。水分不足では効果が薄れてしまうので、下剤の服用とともにたっぷりと水分を摂ることが大切です。
実践してみよう便秘のケアはこうする
便秘解消には以下のケアをしてみましょう。
規則的な生活
腸は生活リズムに敏感です。不規則な生活は自律神経を乱し、腸の働きが悪くなってしまいます。水分をしっかり摂ると日中のぼんやり感が解消するので、昼夜のリズムが整う場合もあります。
食物繊維
食物繊維は便の量を増やし、排便をしやすくしてくれます。イモ類や根菜類、穀物、海藻、葉菜などを積極的に取りましょう。
食事で十分に取れない場合は、粉末状の食物繊維を購入するのも良いでしょう。寒天にも食物繊維が多く含まれているので、寒天ゼリーやところてんで摂るのもおすすすめです。
1日1,500mlの水分
便秘解消には水分が欠かせません。毎日必要量の水分が摂れているか、改めて確認してみましょう。起床後にコップ1杯の水を飲むと、腸が刺激されて自然な便意を誘発することもあります。
普通食
例例えばおかゆで考えると、米粒の量は普通のご飯より少なくなります。噛む必要がない食事になればなるほど食材の量が減っていくため、食物繊維が不足していきます。便秘を予防するためには、普通食を食べることが大切となります。
運動
立ちあがったり歩いたりすることで胃や腸が活発になり、便意を促します。ウォーキングや体操・外出などを積極的に行いましょう。
定時排便
毎日決まった時間にトイレに座るようにしてみると、排便の習慣がつきやすくなります。
便秘の解消・見える化のポイント
排便の記録をつけていきましょう。可能であれば、「コロコロ」「下痢」などの便の状態と、「バナナ1本」「バナナ半分」などの量も記録することが望ましいです。
運動のケア|1日2km程度歩くがBEST
高齢者の運動というとストレッチや体操などがありますが、認知症の人に一番効果的な運動は「歩く」ことです。
認知力を高める運動と認知症の関係
歩く動作は全身の筋肉が連動して使われ、脳を刺激し、意識がしっかりしてきます。
外を歩くと感覚機能も刺激されるよ!
外を歩くときは視覚や聴覚を使って周囲に注意したり、危険を察知したりしています。道は常に平らではないので、体の平衡感覚も働きます。さらに景色を見て感性が刺激され、皮膚感覚で気温を感じることができます。
認知症であればさまざまな刺激から認知力が向上し、症状が改善していきます。昼間に活動することで、夜間の熟睡にもつながります。
実践してみよう運動のケアはこうする
運動のケアは1日2km程度のウォーキング、もしくは30分程度の運動を行いましょう。20~30分ぐらい歩けば2km程度になるので、近所をぶらりと散歩する程度と考えましょう。
でも、毎日歩かせるのは大変。毎回付き添うこともできないし・・・
要介護認定を受けている人は介護保険サービスを使うといいよ。
介護保険サービスで「デイサービス」を利用すれば、体を動かす機会が自然と増えていきます。体操・活動をメインにしている施設もあるので、かなりの運動量になる場合もあります。
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デイサービスとは、日帰りで施設に通う介護保険サービスです。車での送迎があり、機能訓練や入浴・食事・レクリエーションなどのサービスを提供しています。
運動のケア・見える化のポイント
「散歩」「デイサービス」など、行った運動やイベントを記録していきましょう。気候の問題や家族が対応できる範囲もありますが、週に4日程度継続できると認知症の症状に良い効果をもたらします。
認知症の症状も記録
認知症の落ち着かない症状(周辺症状)がなければ〇、多少見られたのであれば△、症状が強ければ✕と記録していきましょう。これは家族(介護者)の感覚となりますが、大切なのは負担を感じなくなるかどうかです。
パターン化している症状があれば個別に書き出し、項目ごとに評価していくとさらに分かりやすくなります。
「見える化」するための記録を以下にまとめるよ。
- 水分摂取の記録
1日のトータル水分量を記録します。夜のトイレが心配であれば午前中に多め・18時以降はやや少なめなど、調整しましょう。
- 食事の記録
朝・昼・夕+おやつで記録していきましょう。全量食べれば〇、半分なら△、食べなければ✕など、負担なく分かりやすい記録にしていきます。全量を10割とし、食べた割合(8割、3割など)を記録するのもOK!
- 排便の記録
1日分の排便があれば〇、少なければ△、なければ✕と記録しましょう。可能であれば「コロコロ」「硬い」「下痢」などの形状と「バナナ1本」「バナナ半分」など量も記録できると◎。
- 運動の記録
「散歩」や「デイサービス」など、わかりやすい記録にしましょう。
- 認知症の落ち着かない症状の記録(周辺症状)
症状がなければ〇、少しでもあれば△、強ければ✕などと記録しましょう。パターン化している症状があればそれぞれに書き出して、症状ごとに評価するとさらにわかりやすくなります。
記録することでケアは見える化できる
記録をすることでケアが「見える化(可視化)」され、認知症の落ち着かない症状(周辺症状)と水分・食事・便秘・運動との関係がわかってきます。先月・1週間前・前日などと比較できるのは、記録をつけているからこそです。
ある程度の記録抜けは気にせず、認知症の落ち着かない症状(周辺症状)に困っている状況であれば、一時期だけでも可能な範囲で記録してみましょう。
でも、家族(介護者)が別居や働いている場合はどうしたらいいの?
可能な範囲で記録をする、あるいはデイサービスなど利用していれば摂った水分を毎回知らせてもらい、「水分が足りているのか・足りないのか」の仮説を立てるといいよ。
仮説があれば、次のアクションにつながります。例えば「デイサービス利用中には1,000mlの水分を摂取させてほしい」と依頼することもできますし、水分補給ゼリーを1日2本摂取できるような環境設定にするなど、方法を考えることも改善の一歩となります。
まとめ
ここまで「4つの基本ケア」について解説していきました。
認知症の落ち着かない症状(周辺症状)は水分を整えるだけで改善するケースが多くあります。全部を一度にケアするのは大変なので、まずは水分のケアだけでも行ってみてはいかがでしょうか。
ただし、認知症以外の病状が不安定、または水分摂取量に制限がある場合は、主治医によく相談してください。
精神薬や認知症薬を服用している場合、「4つの基本ケア」を行っても効果が十分得られない場合もあります。その他、夜間の頻尿や、本人の拒否が強いために水分が摂れない場合もあるでしょう。
他の記事でも問題別に詳しく解説をしていきますので、ぜひお読みください。