気持ちのバランス

親の介護で離婚の危機|夫婦ができる対策とは

2025年2月12日

ケアマネジャーの業務に携わる中で、介護が原因で離婚の話が出てくる家庭に何度か出会いました。介護の負担は心身に大きな影響を与え、日常生活や精神的な健康に支障をきたすことがあります。それが結果として夫婦間のコミュニケーションや協力体制にも影響を与えてしまいます。

この記事では「夫婦」に特化して記載していますが、「夫婦」は性別を問わずパートナー、「離婚」は別れと同義ととらえてください。お互いを大切に思うカップルであれば、介護に起因する問題に差はありません。

ケース1:真夜中の離婚相談

同居する義母を介護しているAさんは、夫に大きな不満を抱えていました。もともと義母との関係は良くなかったのですが、介護が始まる前までは生活が分かれていたため、それほど問題にはなりませんでした。

義母が認知症を発症

Aさんは週4日、パートで働いていました。中学生と高校生の子供もおり、毎日忙しくしている中で義母が認知症を発症しました。義母の身の回りの世話をする機会が増え、Aさんの負担も増えていきました。さらに義母は「食事がまずい」「あんたの世話にはならない」「部屋に入るな」というような言葉を日常的に投げかけられるようになり、Aさんのストレスは大きくなっていきました。

夫が間を取り持たず、週末はゴルフ

Aさんの夫は妻の負担を理解していながらも、間を取り持つことができませんでした。認知症への理解も十分ではなかったため、母親の言うことを信じてしまい、Aさんを責めることもありました。

ある日、Aさんは心身の疲労から、今週末は夫に介護をお願いしたいと話しました。しかし、夫はゴルフの約束があるためできないと言い、それを聞いたAさんは気持ちが折れてしまいました。

夜中に泣きながらの電話

その出来事があった夜中、Aさんから泣きながら電話がかかってきました。「もう限界、離婚します」という切実な言葉に、どう答えるべきか、どんな声をかけるべきか悩みました。「介護で限界」には対応できますが、離婚の話にはどう関わるのが正解なのかわかりませんし、ケアマネジャーとして介入できる内容でもありません。

気持ちに余裕がないときに決断しないよう伝え、話を聞くことに徹しました。そして近日中に家庭訪問すると約束し、20分ほどで電話を切りました。

夫婦の問題には口を出せない

3日後、Aさん夫婦と話をしました。ケアマネジャーの業務は、基本的に介護関連の内容に限られます。夫婦関係に意見することは難しく、そのためケアマネジャーとしてアドバイスではなく、率直な思いをAさんの夫に伝えました。

  • Aさんは介護をとても頑張っている。でも、限界であることを認識してほしい
  • 母親の認知症について理解し、Aさんも納得のできる役割分担をしてほしい
  • お互いの気持ちを話し、聞く時間を定期的に設けてほしい

以後、Aさんの夫は歩み寄りを見せ、介護サービスの利用も安定したことから、順調に介護を継続できるようになりました。Aさんのストレスが強まることもありますが、「ケアマネさんは私の味方よね」と冗談交じりに言える程度にまでなりました。

ケース2:別居状態でお互いの親を介護している夫婦

Bさんは車で20分ほど離れた場所に住む父親の介護をしていました。父親は自分にも他人にも厳しく、Bさんの妻にも多くを要求する人物でした。Bさんの妻はその要求に応えることができず、義父の介護はできないとBさんに伝えました。

お互いが介護を抱えたことで別居となる

妻が義父の介護をしないことをきっかけに、夫婦関係は悪化していきました。その間に、Bさんの妻も両親の介護がはじまり、子どもを連れて実家に戻ってしまいました。Bさん夫婦はお互いが自分の親を介護することになり、1年以上別々の生活を続けていました。

ただ、Bさんの妻は2週に1回ほど、作り置きできる料理をタッパーに詰めてBさんに届けていました。料理が得意ではないBさんにとってこれはありがたく、とても助かっていました。

また一緒に暮らさないんですか?

将来、介護がお互い終わったら、また一緒に暮らさないのかと聞いたことがあります。一時は離婚の話も出たそうですが、お互い大変な時期に決断することではないとして、先送りしているそうです。Bさんとしては、元の生活に戻りたいし、ときどき手作りの惣菜を持ってきてくれるのが嬉しく、感謝していると話していました。

ケアマネジャーとして支援を開始した時点で、Bさんはすでに別居状態でした。そのため、Bさんの妻にお会いすることはありませんでしたが、いずれまた一緒に暮らせるといいなと思っていました。

介護が原因で離婚する前にできること

介護が夫婦関係に大きな影響を及ぼすことは珍しくありません。特に介護が長期間続いたり負担が大きくなったりすると、夫婦間の不満やストレスが増し、お互いに対するネガティブな感情が高まることがあります。

しかし、介護が原因で離婚を考える前に、夫婦でできることはたくさんあります。ここでは、夫婦が介護の問題に直面し、気持ちがすれ違ったときに試してほしい方法をご紹介します。

お互いの気持ちを正直に伝える時間を作る

日常の忙しさに流されてず、定期的に夫婦で介護について話合う時間を持つことをおすすめします。お互いの感情や考えを正直に伝えることで、誤解や不満を解消することができます。

「気付いてほしい」「察してほしい」という気持ちから話し合いを避けると、ストレスが爆発してしまうことがあります。また、「言わなくても分かるだろう」「理解しているはず」と思い込むことで気持ちのズレが大きくなり、関係が悪化する可能性もあります。

だからこそ、こまめにコミュニケーションをとることが、良好な関係を維持するためのカギとなります。

夫婦カウンセリングを受ける

話し合うと感情的になってしまい、言い争いになる場合は、夫婦カウンセリングがおすすめです。利用するには抵抗があるかもしれませんが、専門家の助けを借りることで、お互いの気持ちや悩み、不満を言語化して冷静に伝えやすくなります。

夫婦のコミュニケーションを改善し、お互いの気持ちや困難を理解し合うことで問題解決の糸口を見つけることができるため、カウンセリングという選択肢も検討してみてください。

仕事や子育てなども含めた介護の役割分担

夫婦で協力して介護に取り組むためには、役割分担が重要です。仕事や子育て、家事なども含めて、どのように分担するかを話し合いましょう。

大切なのは、お互いが決めた役割分担に納得しているかどうかです。必要に応じてケアマネジャーも交え、介護サービスの利用も考慮しながら、お互いの負担を軽減するために話し合いを続けましょう。

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時には一時休戦、棚上げの時期も必要

お互いがストレスフルな時期に、離婚などの重大な決断は避けるようにしましょう。特に怒りを感じたり、気持ちが追い込まれた状態で行う決断は間違いがちで、取り返しのつかない後悔を生みかねません。

夫婦関係についての「重大な決断」はいつでもできるので、一旦棚上げにし、介護体制を整えたり、介護サービスを充実させたりすることに注力することが大切です。

お互い介護から離れる時間を持つ

状況によっては介護サービスのショートステイなどを利用し、問題が深刻化する前に介護から一時的にでも離れる時間を持つことも必要です。リフレッシュすることで、お互いの気持ちに余裕が生まれ、冷静に話し合えるようになります。

Memo

ショートステイとは、介護が必要な高齢者が一時的に施設に滞在することができるサービスです。このサービスを利用することで、介護者がリフレッシュしたり、自身の用事を済ませたりする時間を持つことができます。利用期間は数日から数週間程度で、その期間中に食事、入浴、排泄の介助など、日常生活全般のサポートを受けることができます。

支援者や仲間の存在を活用する

周囲の支援を受けることで、介護の負担を軽減することができます。友人や家族、地域の支援団体など、頼れる人々とつながりを持ちましょう。同じような経験をしている仲間との交流も励みになります。

地域に介護カフェや介護家族会などがあれば、顔を出してみるのも良いかもしれません。

まとめ

介護が原因で離婚の危機に至らなくても、小さないさかいは多々あります。夫婦のどちらかに介護負荷が強くかかり、対等な立場で話し合いができないこともあります。

ケアマネジャーとしては、夫婦関係にまで口出しすることは基本的にできず、どちらかの肩を持つことも難しい場合がほとんどです。ただ、介護はいつか終わります。そんなときに後悔しないよう、重大な決断は追い詰められているときにせず、介護体制や環境を整えることに注力するのが最善だと考えています。

まずは、適切な支援とリソースを活用しながら介護に取り組むことで、介護負担を軽減していくことを目指しましょう。

「嫁介護」問題を考えてみました

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