介護は心身に大きな負担がかかり、ストレスやイライラを感じることが少なくありません。しかし、介護を続けるためには、怒りを上手にコントロールする方法を身につけることが重要です。この記事では、介護中の怒りをコントロールするための方法をいくつかご紹介します。
介護でどんなときにイライラする?
介護者がどのような状況でイライラを感じやすいかを理解することは、怒りをコントロールするための第一歩です。具体的にどんなときにイライラが生じるのか、事例を含めて見ていきましょう。
親の介護拒否
親が介護を受けたくない、または自分の意見を強く主張する場合、介護者との間で対立が生じることがあります。また、親が自立心を保とうとする一方で、介護者の助けが必要な場合もあり、双方の意見が一致しないことがイライラの原因となります。
ケース1
Aさんは父親の介護に疲れを感じたため、デイサービスを勧めました。父親の足腰の弱りも心配で、体力向上と介護負担の軽減を考えてのことです。特に、入浴のサポートを受けられるので、Aさんとしてはぜひ利用してもらいたいと思っていました。しかし、父親は頑なに拒否し、ケアマネジャーと共に説得を試みましたが、受け入れてもらえませんでした。Aさんには父親の態度が我儘に映り、何とも言えない怒りを感じました。
介護をコントロールできない苦痛
介護は計画通りに進まないことが多く、予期せぬ出来事や問題に直面することがあります。これにより、自分の予定をコントロールできず、介護に振り回されていると感じることがよくあります。特に認知症の介護では、不穏なときの行動が予測できないため、イライラの原因となります。
ケース2
Bさんは認知症の母親を介護しています。毎晩、仕事帰りに母親の世話をしていますが、ある日訪問すると母親がいませんでした。周囲を捜して心当たりに連絡をしましたが見つからず、警察に捜索願を出しました。しばらくして、隣近所の寝室で寝ていたことが分かり、無事に家に連れ帰ることができました。多くの人に迷惑をかけ、母親が無断で他人の家に入っていたことに対する恥ずかしさから、Bさんは非常に強いストレスと苦痛を感じました。
時間的なストレス
介護は時間がかかるため、自分の時間が持てなくなることがあります。特に、仕事や子育てなどで既に自分の時間が持てない状況に加えて介護に時間を割く必要があると、ますます自分のための時間がなくなってしまいます。
削る時間がなくなると、睡眠時間を減らして介護にあてるようになり、ストレスだけでなく健康にも影響が出てしまいます。常に時間に追われる生活では、気持ちの余裕がなくなってしまいます。
ケース3
Cさんは40代後半で、仕事と介護を両立しています。同居している父親は脳梗塞の後遺症で麻痺があり、着替えやトイレには介助が必要です。日中はデイサービスを利用していますが、夜はCさんが介護を行っています。父親は眠りが浅く、夜中に何度もトイレに行きたがります。そのたびにCさんはトイレ介助を行い、毎晩寝不足に悩まされていました。疲労とストレスが溜まり、ついには父親におむつを使うよう怒鳴ってしまいました。
経済的な負担
介護には多くの費用がかかります。医療費や介護サービスの利用料金など、経済的な負担が増すことで、ストレスが増大します。さらに介護のために仕事を辞めてしまうと、貯金を崩しながらの生活となります。これによって、家計に対する不安が生じることもあります。
ケース4
Dさんは50代で、貯金がある程度あったため、仕事を辞めて介護に専念することにしました。親の介護が落ち着いたら再就職を考えていましたが、状態が悪化し、医療的な処置も増えたため予想以上にお金がかかりました。さらに、家の修繕も必要となり、予定外の出費も重なりました。急いで再就職先を探しましたが、介護と両立できる働き先は見つかりませんでした。
達成感のなさ
介護は長期間にわたることもあり、目に見える成果を得られないことがあります。そのため、努力が報われないと感じ、達成感を得られず、イライラの原因となることがあります。
ケース5
Eさんは5年以上にわたり義理の親を介護しています。3年前にパートを辞めた後、介護の疲れから友人とも疎遠になってしまいました。義理の親からは愚痴ばかり言われ、夫は間を取り持ってくれません。自分の5年間はなんだったのだろう、あと何年介護が続くのだろうと考えると涙があふれてきます。介護に協力しない夫に対し、とうとう怒鳴ってしまいました。
これらは、介護中にイライラを感じるいくつかの例です。日常の小さな積み重ねが大きなストレスとなり、それが怒りや不満につながることがあります。
限界まで介護をすることで起こるリスク
イライラを感じながら我慢して介護を続けていくと、以下のようなリスクが高まります。
- 介護うつ
- 介護離職
- 虐待
介護はうつに陥りやすい
介護うつとは、介護を行うことによるストレスや負担が原因で発症するうつ病のことを指します。介護を続ける中で肉体的・精神的な疲労が蓄積され、次第に気持ちが沈んだり、無気力になったりする状態です。
悲しみや無気力感から、何をしても楽しめない、意欲がわかないと感じることが多くなります。食欲の変化、睡眠の乱れ、頭痛や腹痛などの身体的な症状が表れることもあります。介護に携わる人は、だれでも介護うつを発症するおそれがあります。
気分の落ち込みや感情の鈍化、その他身体的な症状が2週間以上続く場合は受診を検討したほうがいいかもしれません。
介護離職で生活苦に
ストレスやイライラを解消できないと、気持ちに余裕がなくなり、重要な決断を誤ることがあります。特に仕事と介護を両立させる中で追い詰められると、辛い状況から逃れるために「仕事を辞める」という極端な選択をしてしまうことがあります。
介護のために仕事を辞める「介護離職」は、経済的な困難を引き起こします。再就職も難しく、男性は収入が約40%、女性は約50%減少するといわれています。介護離職後に収入が半減する状況が10年続くと、介護離職をしなかった場合と比べて貧困に陥る可能性が高くなります。
さらに、キャリアが途切れることで、身につけた技術や知識を活かすことが難しくなります。介護離職により職業的な成長機会が失われ、自己実現の場を見つけることも難しくなります。
虐待の可能性が高まる
在宅介護が限界に達すると、虐待に発展してしまうことがあります。虐待通報件数は年々増加しており、2021年度の虐待通報件数は3万6,378件でした。
介護者が過度のストレスや疲労にさらされることで、感情のコントロールが難しくなり、適切な対応ができなくなることがあります。虐待は身体的な暴力だけでなく、言葉による暴力や無視などの心理的虐待も含まれます。
イライラや怒りをコントロールするにはどうすればいい?
介護中のイライラや怒りをコントロールするためには、以下の方法を参考にしてください。
怒りの正体は?
怒りは二次的な感情であることをご存知でしょうか?実は、怒りの背後には不安や悲しみ、恐れなどの一次的な感情が隠れていることがあります。これらの一次的な感情を正しく理解し、受け入れることが大切です。
一次的な感情を認識する
例えば、ケース1の父親がデイサービスの利用を受け入れない場合について考えてみましょう。頑なに拒否をする父親に感じた怒りは二次的な感情です。では、一次的な感情は何でしょうか。
- 私の苦労も知らずに…「悲しい」「つらい」
- いろんな人が協力して説得しているのに…「やるせない」「恥ずかしい」
- お父さんの体を心配しているのに…「むなしい」「無力に感じる」
こんな一次的な感情に気づき、受け入れることで、怒りの気持ちがおさまっていきます。
一次的な感情の癒し方
一次的な感情に目を向けたら、その感情を癒すことが重要です。一次的な感情に気づいたら、次の方法を試してみてください。
- 自分を許す:自分の感情に優しく接し、責めるのでなく理解すること
- リラックス方法を実践する:深呼吸、瞑想、ヨガなど、心を落ち着ける方法を取り入れる
- 適度な運動をする:散歩や軽いジョギングなどの運動は、ストレス解消に効果的
リラックス方法は深呼吸だけでも効果があります。怒りを感じているときは交感神経が優位になっているため、深呼吸をして副交感神経を優位にしましょう。体の仕組み的にも正しい方法なので、ぜひ実践してみてください。
Memo
【介護疲れにリラックスが必要な理由】
交感神経は「戦うか逃げるか」反応として知られており、体が危険に対処するための準備を始める状態です。この状態では、心拍数が上がり、血圧が高くなり、アドレナリンが分泌されるため、体が緊張し、即座に行動できるようになります。
この交感神経の反応は一時的には有益ですが、長期間続くと心身に大きな負担がかかるため、適切なリラックス方法を見つけ、副交感神経に切り替えることが重要です。深呼吸や瞑想、適度な運動などがリラックスに効果的です。
感情の表現方法を見つける
怒りを感じたとき、一次的な感情に向き合っても、どうしても抑えきれない思いが残ることがあります。その場合は、自分に合った適切な表現方法を見つけることが大切です。
- 自分の感情を書き出す:自分の感情を可視化することで、感情を客観的に見つめ直すことができます。これにより、自分がどのように感じているのかをより明確に理解できます。
- 信頼できる人に話す:人に話すことで、内に溜め込んでいたストレスを解消する効果があります。話すことで気持ちが軽くなることがあります。
- プロフェッショナルのサポートを受ける:介護におけるストレスや怒りが大きくなりすぎた場合は、専門家のサポートを受けることも重要です。カウンセリングやメンタルヘルスの専門家に相談することで、適切な対処法を見つけることができます。
ポイントは感情を整理することです。自分の感情や考えを整理することで、自分自身をより深く理解することができます。自己理解が深まると、対処方法も見つけやすくなります。
基本は介護負担の軽減
そもそも、イライラや怒りが生じない環境作りも大切になります。そのために地域包括支援センターやケアマネジャーを頼り、介護保険サービスを効果的に利用していきます。早い段階でサービスを導入し、介護を受ける本人も介護者も、介護サービスの利用に慣れておく・理解しておくと良いでしょう。
さらに働いている人は「育児・介護休業法」についても調べておくことをおすすめします。自分の介護環境を助ける制度は積極的に利用し、介護負担を軽くしておくことで、ストレスが高まるのを予防していくことが大切です。
介護の相談は、以下の専門機関で行えます。
- 市区町村の介護保険窓口
- 地域包括支援センター
- 居宅介護支援事業所
まとめ
最後に、介護で怒りを感じ親にぶつけたとしても、自分を責めないことが大切です。介護は大変な仕事であり、ストレスや怒りを感じることは自然なことです。自分を大切にし、無理をせずに介護を続けることが、長期的には親のためにもなります。