ケアマネジャーとして10年以上の経験から感じるのは、「家庭円満に親の介護をしている家族は少ない」ということです。介護者の生活に影響を及ぼさない介護はほとんどなく、介護を続ける上で時間やお金の負担は避けられません。
このような状況に対して、多くの人は気持ちの折り合いをつけて介護に取り組んでいます。しかし、一部の人は気持ちのバランスがうまく取れず、介護に対する不安やストレスが増すことがあります。
今回の記事では、介護者が気持ちの折り合いがつかない場合の悩みについて解説します。
この記事でわかること
- 介護を苦しめる言葉や考え方を知る
- 介護中の揺れる気持ちとの付き合い方
- 介護をしない選択肢もあると知る
親の介護は義務ですか?
「子どもだから親の介護は当たり前」「介護は親孝行」と言われることがありますが、この考えは本当に正しいのでしょうか。少子高齢化が深刻な問題として浮上している今、介護の「当たり前」を見直す必要があるかもしれません。
介護を縛る考え方
介護について、このようなことを聞いたり、言われたりしたことはありませんか?
- 介護は親孝行
- 介護は育ててもらった恩返し
- 親の面倒を見ることは子供の義務
- 施設に入所させるなんて可哀そう
- 長男だから、介護を担うのは当たり前
- お嫁さん(子の妻)だから、義理の父母を介護するのは当然
- 介護を他人に任せるべきではない
このような考え方は一見、一般的に受け入れられているように思われますが、時代遅れとも感じられます。同じ言葉ではなくても、似たような表現で自分自身に押し付けてしまっている場合もあるかもしれません。
親孝行の一環として介護をすることを否定するわけではありません。大切なのは、介護者自身の健康と幸福も守ることです。親を思う気持ちは尊重すべきですが、それが自分を犠牲にするものであってはいけません。
重要なのは、介護者が苦しんでいる考え方に囚われていないか、またその考え方に縛られていないかを確認することです。もし、そのような縛りがあるならば、その考え方を変えていく必要があります。
「親の介護は子供の義務」が無理な時代に
日本の高齢化は、他国に類を見ない速さで進行しています。65歳以上の高齢者を支える人口が減少し、1970年頃には約10人が1人の高齢者を支えていたのに対し、2020年には約2人が1人の高齢者を支えるという人口構造に変わりました。
かつて約10人で1人の高齢者を支えていた時代には、「親の介護は子供の義務」という考え方が成立していました。しかし、現在では約2人が1人の高齢者を支える時代となり、この考え方は難しいものとなっています。
親世代も子どもに頼らない心構えが必要
「老いたら子供に頼る」「長男に、子の妻に介護をしてもらうのが当然」といった考えは改める必要があるかもしれません。一人っ子同士が結婚すれば、4人の親を介護することになる可能性もあります。子が担う介護負担が確実に大きくなっている現代では、介護のカタチも多様性が求められています。
厚生労働省の「令和4年版 働く女性の実情」によると、労働力人口に占める女性の割合は44.9%と上昇しています。「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という意識も薄れつつあり、子の妻が義理の父母の介護をすることが当たり前ではない時代になりました。
親世代は、自分の介護について子供に頼らない心構えを持ち、老後の計画を早めに考えることが必要です。
介護をしない選択肢
親が元気なうちから「自分は介護しない」と宣言する子ども世代が、少しずつ増えているようです。それは親を突き放したり嫌ったりしているのではなく、「介護はプロに任せる」という意味を含んでいます。
自分を主体にした介護が基本
介護される側も、介護する側も、不幸になる介護は誰も望んでいません。親も子も良い関係を保ちながら介護をするためには、「介護する側」にポイントがあります。
「介護する側」は、自分を主体に介護を捉えてみてください。仕事や自分自身の家族、趣味や余暇時間などの中で、どの程度介護に時間を割けるのか、どこまでが許容範囲なのかを考えておきましょう。
介護に自分を当てはめるのではなく、自分に介護を当てはめて考えることが、自分を主体にした介護のスタートラインとなります。
揺れる気持ちと上手に付き合う
自分主体の介護では、介護関係者(主にケアマネジャー)に「自分ができるのはここまでです」と伝える必要があります。場合によっては遠距離介護であったり、仕事にも力を注ぎたい時期かもしれません。また、子供が幼く、介護に十分な時間を割けないこともあるでしょう。そのようなときに「自分のできる介護の限界」を決めておくのは、悪いことではありません。
時には、「罪悪感」や「後ろめたさ」で悩むことがあるかもしれません。あるいは、周囲から厳しい言葉を受けて心が揺れることもあるでしょう。
そのような場合には、自分自身のできる範囲を何度も見直してみてください。介護は老いた親と向き合う貴重な時間でもあり、その中で心が揺れ動くのは当然の感情です。変化する感情を受け入れながら、自分ができる介護の範囲を調整していきましょう。
親と過ごす時間を大切にする
気持ちが揺れているときにおすすめなのが、「親との大切な時間を作る」ことです。例えば、遠距離介護で帰省する場合、一緒に過ごす時間を介護に使うのではなく、楽しむ時間にしましょう。
介護保険サービスを活用して介護は全面的にプロに任せ、家族はともに過ごす時間を大切にすると良いでしょう。
自分のために「介護をしない」選択をする
人によっては、長い歴史の中で親と良好な関係を築けなかったケースもあるかもしれません。急に介護が必要になったからといって、介護者が気持ちを無理に抑えて介護を続けると、ストレスから「介護うつ」や「怒りをコントロールできない」状態に陥ることがあります。
そのような場合には、「介護はしない」と決め、介護関係者に理解を求めることも一つの方法です。介護を放棄するのではなく、必要な判断は行い、直接的な介護は全てプロに任せるのです。
介護保険サービスや自費のサービスを組み合わせることで、大部分の介護をカバーできるようになりました。介護施設も多様化し、老後の選択肢が増えています。子どもの直接的な介護が必ずしも必要ではないことを知っておきましょう。
まとめ
世の中にはさまざまな家族の形があり、介護にも決まった家族の関わり方はありません。大切なのは、過去の風習とも思える介護の考え方を改め、今の時代に合った感覚にアップデートすることです。
悩みのない介護はなく、苦労のない介護も存在しません。揺れる気持ちに向き合いつつ、介護の専門職と相談しながら無理のない範囲で介護に関わっていきましょう。