介護保険制度

訪問介護の「できないこと」問題はどう解決する?

訪問介護(ホームヘルパー)のサービスを利用する上でよくあるトラブルの一つが、「できること」と「できないこと」の問題です。
介護サービスを利用する側(利用者)が「やってもらいたい」と思うことでも、介護保険制度の規定によりホームヘルパーが行えないことがあります。

この記事では、訪問介護での「できないこと」から生じる問題や、その解決方法を事例を交えて解説していきます。

訪問介護で「できないこと」は大きく分けて5つ

訪問介護のサービス内容は介護保険法によって制限されており、引き受けられないことがあります。以下のような内容はサービスの対象外となります。

  • 日常生活の範囲を超えたサービス:庭の草むしりや家具の移動、特別な調理(おせちなど)、大掃除など、日常生活を過ごす上で必ず必要とならないことは提供できません。
  • 本人以外の援助:訪問介護では利用者本人以外にサービスを提供することはできません。家族分の調理や買い物、洗濯、来客のお茶出し、ペットの世話などは介護保険の対象外となります。
  • 本人ができることへの援助:歩ける方に車いすのレンタルができないことと同様に、訪問介護でも利用者本人のできることは、基本的に行ってもらいます。家事代行サービスではないため、掃除が面倒、料理が苦手、トイレ掃除が嫌いなどの理由ではホームヘルパーが行うことはできません。
  • 同居家族がいる場合の生活援助:同居家族がいる場合は、基本的に生活援助が利用できません。しかし、ケアプラン作成(ケアマネジャーが作成するサービス計画書)の段階で「家族が行うことが困難である」と認められた場合は、生活援助が利用できます。
  • 医療行為:ホームヘルパーは介護を専門とする職種であり、医療行為を行うことはできません。医療行為を行えるのは、基本的に医師や看護師などの医療従事者に限られます。
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訪問介護の「できないこと」はトラブルに発展しやすい

実際に利用者や家族から、「今日だけ」「ついでに」などと言われ、本来はできない作業をお願いされることは少なくありません。ホームヘルパー自身も、体の動きに制限がある方や忙しい家族を目の前にすると、「少しぐらい」「今回だけ」と対応できない作業をしてしまうことがあり、それが毎回のように求められる状況になることもあります。

こうなると、利用者や家族は「あのヘルパーさんはしてくれた」「前はしてくれたのに」といった不満を抱くことで苦情に発展したり、要望がエスカレートしていくこともあります。

ここからは事例を3つご紹介します。

事例1:猫好きなホームヘルパー

ケース1

独り暮らしのAさんはリウマチのため手の痛みが強く、ヘルパーに今回だけ猫砂を替えてほしいと依頼しました。気の毒に思ったヘルパーは、今回だけと約束して作業を行いましたが、その後も毎回頼まれるようになり、習慣となってしまいました。

Aさんには事前にケアマネジャーからペットの世話はできないことが説明されており、ホームヘルパーも事業所から依頼されても断るように指示されていました。それでも、目の前で困っている姿を見かねて作業を引き受けてしまい、その後も続けざるを得なくなったケースです。

事例2:洗濯物に息子さんの衣類が混じっている

ケース2

息子さんと二人暮らしのBさんは病気で汗を多くかくため、1日に2~3回着替えをします。そのため洗濯物が多く、本人の衣類のみをヘルパーが洗濯することになりました。しかし、ある日から息子さんの衣類も混じるようになりました。事業所を通じて注意してもらいましたが、依然として余分なタオルが混じっています。Bさんに確認すると、トイレや台所で使っている共有タオルとのことでした。

共有で使用するタオルは訪問介護の範囲内でしょうか?

介護保険の訪問介護サービスは、原則として利用者本人への支援や介助のみが対象です。そのため、家族と共有して使用するタオルの洗濯はサービスの対象外となります。

事例3:厚みのある爪を切ってくれと頼まれた

ケース3

入浴介助で訪問しているヘルパーは、利用者のCさんから「入浴後の爪が柔らかいときに爪切りをしてほしい」と頼まれました。Cさんの爪は厚みがあり、簡単に切ることができません。訪問介護手順書(ヘルパーの作業内容を詳細に記載した書類)にも爪切りは記載されていないないので「今回はできない」と説明しましたが、Cさんは納得しませんでした。

爪切りが行える条件として、爪に異常や炎症がないことが求められます。異常がなかった場合でも、ヘルパーは基本的に訪問介護手順書に従った作業しか行えず、可否については事業所やケアマネジャーに確認する必要があります。その場で返答できないことも多く、「次の訪問までに確認しておきます」と要望が持ち越されることも少なくありません。

訪問介護サービスには、「できること」に含まれていてもすぐに応じられない場合があります。そのため、サービス内容の打ち合わせは事前にしっかり行い、依頼したいことが増えたときに余裕をもって相談できるようにすることが望ましいです。利用者とヘルパーの信頼関係を崩さないためにも、「できること」と「できないこと」の境界線は守るようにしましょう。

訪問介護で対応できないことは、どうすればいい?

介護保険の訪問介護で対応できないことは、以下の方法で依頼することができます。

  • 介護保険外の自費サービスを活用する
  • ボランティアにお願いする
  • シルバー人材センターに依頼する
  • 訪問看護に依頼する

それぞれ、詳しく説明していきましょう。

介護保険外の自費サービスを活用する

多くの訪問介護事業所では、介護保険外サービスとして自費のサービスを提供しています。例えば、掃除などの生活援助を介護保険内のサービスとして行い、その後に庭の草むしりを自費サービスとして依頼できます。

このように、介護保険適用内と自費のサービスを組み合わせて利用することが可能です。ただし、自費サービスは全額自己負担となるため、利用料金が高めに設定されています。事前に料金を確認し、納得して利用する必要があります。

自費サービスは費用負担が大きくなりますが、家族のサポートや趣味・楽しみのための外出も可能になります。介護保険内サービスとうまく組み合わせることで、本人の活動範囲が広がり、家族の負担が軽減されるというメリットがあります。

ボランティアに依頼する

地域によっては、家事支援やゴミ捨て、草むしりなどを引き受けてくれるボランティア団体があります。ただし、ボランティア団体によっては問題や事故が発生しても補償がない場合があるため、詳しい説明を受けてから利用するようにしましょう。

シルバー人材センターに依頼する

シルバー人材センターは、高齢者の就労支援と社会参加を促進し、地域社会への貢献を目指す組織です。センターに仕事を依頼すると、登録されたシニア・高齢者が訪問してくれます。

危険やリスクの高い作業は依頼できませんが、介護保険の対象外となる植物への水やり、犬の散歩、窓拭き、草むしりなどの作業を依頼できます。

対応可能な作業や料金はセンターごとに異なるため、事前に確認しておくことをおすすめします。

訪問看護に依頼する

在宅で医療的ケアが必要な場合、介護保険サービスの訪問看護を利用できます。訪問看護では、看護師などが自宅を訪問し、療養上の世話や診療の補助を行います。サービス内容には、医療的ケア、病状や健康状態の観察、苦痛の緩和、リハビリテーション、療養生活の相談や支援などが含まれます。

訪問介護と訪問看護はどちらも利用者の自宅を訪問して行うサービスですが、医療的ケアを提供する訪問看護の方が料金が高く設定されています。そのため、訪問介護で対応できる部分は行ってもらい、医療的な処置は訪問看護を利用するという組み合わせが一般的です。

なお、訪問看護を利用するためには、ケアプランにサービスの利用を組み込んでもらう必要があります。

まとめ

介護保険の訪問介護で対応できないことについては、自費サービスのほかにシルバー人材センターやボランティアに依頼する方法もあります。これらの情報はインフォーマルサービスとしてケアマネジャーや地域包括支援センターが把握しているため、相談してみましょう。

訪問介護には対応できることとできないことがあるため、トラブルを避けるために、サービス内容については事前にしっかりと確認しておきましょう。

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