親に介護が必要となったとき、「どうしたらいいのか」「この先どうなるのか」という不安が一気に押し寄せます。
そんなとき、介護のスタートから看取りまでの全体像を意識していくと、状況に応じた心構えのヒントになります。
今回は、段階的な変化や対処方法を4つのフェーズに分けてお伝えします。
フェーズ1 介護を要する状況が発覚(混乱期)
介護がスタートした時期です。それは突然かもしれませんし、家事などを肩代わりしていたのが介護に変わり、それを「介護」と認識したときかもしれません。
フェーズ1この時期の背景
- 今まで健康だった親が、突然倒れてしまった
- 会話や行動がおかしいと気づき、不安を感じる
- 何となく身の回りの世話を手伝っていたが、負担が大きくなってきた
- 風邪で寝込んだだけなのに、歩けなくなった
- 久しぶりに帰省すると、家の中が不衛生な状態で、親との会話も噛み合わない
親の突然の変化に動揺し、何とか元通りの生活に戻さねばと慌てて頑張ることのないようにしましょう。最初にやるべきことは、「相談」です。親の住まいにある地域包括支援センターに連絡を取り、状況を説明し、その上で子供として何をしなければならないのかを確認します。
フェーズ1子供(介護者)の気持ち
- 混乱、否定、とまどい
- 親が要介護状態になったことを認められない
- 先の見通しが立たず、不安
働いているのか、独身か家族がいるのか、同居か遠距離かなど、介護を行う側の立場はそれぞれです。
介護を受ける側の状態も異なり、軽度な要支援状態か、認知症が急激に進んでいるなどの違いもあるでしょう。
背景は異なるものの、介護者である子供は混乱と戸惑いを感じ、この先どうなるのかわからず大きな不安を抱えます。あるいは、親の老いを受け入れられず葛藤が生じる場合もあります。
フェーズ1親の気持ち
- 強い不安、否定、混乱
- 何とかしたいが、どうすればいいのかわからない
混乱した子供たちから親へ、次々と質問が飛んできます。
「なぜ、こうなったのか」「これからどうするのか」「なぜ理解できないのか」
親が認知症を発症しているのであれば、「今」の状況を理解するのが精一杯で、どう行動すべきかまで考えが及びません。
子供以上に親も強い不安や混乱の中にいます。それを理解しましょう。
フェーズ1介護保険制度などに関わること
- 地域包括支援センターや市区町村の窓口に相談
- 介護保険申請、認定調査
- ケアマネジャー、主介護者の選定
- 医療(主治医)とのやり取り
介護保険の申請を行うことを最優先に考え、行動しましょう。ケアマネジャーや病院のソーシャルワーカーに、自分の状況と親の現状を伝え、今後について話し合い、将来何が起こり得るかを一緒に考えましょう。
フェーズ1よく利用されるサービス
基本的に介護認定が決まらなければ介護サービスは利用できませんが、緊急性の高い場合は申請と同時に暫定でサービスを利用できます。
Memo
この時期は、介護体制を構築する時期です。介護者自身が直接介護を行うのではなく、マネジメントに注力しましょう。
同居を始めたり、仕事を辞める必要はありません。
衝動的に決断せず、ケアマネージャーと問題を整理しながら、冷静に対応していきましょう。
フェーズ2 生活の変化に適応していく(負担期)
ケアマネジャーからケアプランを提示され、同意したのちに介護保険サービスの利用が始まります。
フェーズ2この時期の背景
- 介護保険サービスを導入するが、親が受け入れない
- 計画通りに事が運ばない
- 介護保険などの手続きが煩雑
介護保険サービスを導入するためには、契約や手続きが必要となり、同時にさまざまな決定・判断を求められます。そのため、介護をする側にとってはストレスの強い時期になります。
さらによくあるのが、親が介護サービスを拒否することで、物事が計画通りに進まないことです。その場合はケアマネージャーや介護の専門職に任せる・相談するなどして対応していきましょう。
フェーズ2子供(介護者)の気持ち
- 絶望、疲労
- サービスを拒否する姿を見て、お先真っ暗に感じる
- 働いていると、仕事にも影響が出てくる
予定を立てても思う通りにならないことから、焦りや怒りを感じるかもしれません。多くの人に迷惑をかけているのではないかと思い、精神的な疲労も強まる時期です。
ただし、状況の理解が深まり、介護保険制度のことも分かることが増えるにつれ、気持ちが落ち着いてきます。
フェーズ2親の気持ち
- 不安、不満、拒否
- 状況の変化に最初は適応できない
(知らない人が迎えに来たり、家に上がり込もうとする)
急な介護サービスの導入などで混乱し、家族に不満をぶつけることもあるかもしれません。
時間を要することもありますが、ほとんどが徐々に適応していきます。
フェーズ2介護保険制度などに関わること
- 実際に利用するサービスを選定
- ケアプラン(介護サービス計画)が作成される
- 介護サービスの事業所と契約
介護保険の仕組みや使い方の説明を受け、理解しながら利用を進めていきます。わからないことは遠慮なく介護関係者に聞き、納得した上で介護サービスを利用していきましょう。
フェーズ2よく利用されるサービス
- 訪問介護(ホームヘルパーが自宅を訪問し、身体に関わる介護や生活援助を行う)
- デイサービス(介護施設などで食事・入浴・機能訓練などを受ける日帰りのサービス)
- 福祉用具貸与(介護用のベッドや歩行器・車いすなどをレンタルできるサービス)
- 福祉用具購入(入浴や排せつに関する福祉用具を購入できます)
- 住宅改修(居室・玄関・浴室・トイレなどに手すり設置したり、段差をなくしたりできます)
新しい環境や人に慣れるのに時間がかかる場合もあります。特に認知症の方は状況を理解するのが難しくなるため、他人が家に出入りしたり、迎えに来たと言って車に乗せようとすることに、不安や恐怖を感じるのは、ある意味当然かもしれません。
Memo
大変な時期ですが、親の介護に直接関わるのは最小限にし、家族以外で介護が成り立つよう体制を強化していきましょう。
フェーズ3 介護のある生活が安定(安定維持期)
介護のある生活がパターン化し、親も子も落ち着いて過ごせる時期です。
フェーズ3この時期の背景
- 安定した介護サービスの利用が続く
- 安定した生活の中で、介護量が増えていく
安定した期間がどの程度続くかは人によりますが、急変するような病気でなければ数年間落ち着いた生活が維持できるかもしれません。
認知症でも適切なケアを受けられれば、進行しても大きな問題なく過ごせるようになります。
フェーズ3子供(介護者)の気持ち
- 割り切り、受容
- パターン化した介護生活に慣れ、落ち着いて応じられる
介護のある生活がパターン化し、多少のトラブルにも動じずに対応できるようになります。親との距離感や介護に対する理解も深まり、余裕が出てきます。親の老いに対して葛藤があった方は、この時期に割り切り・受け入れられるように変化していきます。
フェーズ3親の気持ち
- 受容
- 外部の助けに慣れ、受け入れが良くなる
通い始めたデイサービスで仲間ができたり、ヘルパーを信頼して訪問を楽しみにするかもしれません。多くの人に支えられ、ゆったりとした時間が流れていきます。
フェーズ3介護保険制度などに関わること
- 定期的に介護保険の認定が更新される
- 状態の変化が生じたときは介護サービスの変更やサービスの回数・種類を増やしていく
状況や状態によって、利用する介護サービスが変わります。体の状態が重度化すると、医療系のサービスを導入するかもしれません。
フェーズ3よく利用されるサービス
【軽度(フェーズ2のサービス継続)】
【重度(フェーズ2のサービスに加えて)】
- 訪問看護(看護師が訪問してくれるサービス)
- ショートステイ(1日~30日施設に宿泊できる)
- 訪問入浴(家の中に浴槽を持ち込み、入浴できるサービス)
- 訪問診療
体の状態が重度化してくると、幅広いサービスを利用するために要介護度の見直し申請を行うこともあります。
病状の進行などで医療系のサービスが増える場合は、訪問診療の利用も必要になるかもしれません。
Memo
介護施設への入居を検討している場合は、この時期に行動するといいでしょう。安定した介護生活が続いているのであれば、余裕をもって選ぶことができます。
介護を受ける側が突発的なケガや病気などで、フェーズ2とフェーズ3を繰り返す場合があります。
フェーズ4 介護の終わり(終末期・看取り期)
食事量や水分摂取量が減り、熱が出たり、呼吸状態が変化したり、尿が出なくなったりと徐々に変化が見られてきます。
フェーズ4この時期の背景
医療行為がある場合は「終末期医療」と呼ばれ、医療行為をせずに日常生活のケアを通して身体的・精神的苦痛を和らげることを目的としたのが「看取り」です。
フェーズ4子供(介護者)の気持ち
- 絶望、否定、受け入れ
- 人により反応はさまざま
突然の事態に動揺し、否定や絶望の気持ちを抱くかもしれません。延命治療をどうするか、家で看取れるのか、誰に連絡をするのかなど、苦しい決断やつらくともやらなければならないことが出てきます。
フェーズ4親の気持ち
意識レベルが低下し、眠る時間が増えていきます。意思疎通が難しくなることも多いので、孤独感や不安感が和らぐような、寄り添うコミュニケーションを意識していきます。
フェーズ4介護保険制度などに関わること
介護の単位数が高い訪問看護や訪問入浴のニーズが高まるため、介護認定の見直し申請を行う場合があります。
最後だからと家族で全て介護をしようとは思わず、介護サービスの利用は最後の日まで継続していきましょう。
フェーズ4よく利用されるサービス
- 訪問介護
- 訪問看護
- 訪問入浴
- 福祉用具貸与
- 訪問診療
日々の保清や本人の不快感を取り除くことを中心とした介護サービスが主となります。
自力で寝返りができない場合は、福祉用具のレンタルでエアマットを使うこともできます。
Memo
聴覚の機能は最後まで保たれると言われています。穏やかな最期の時間を過ごせるように、本人の好きな音楽を流したり、家族にしかできない思い出を語り合ったりして、充実した時間を過ごせるように介護にあたりたいものです。
まとめ
介護の全体像を4つのフェーズに分けて、お伝えしてきました。
どの時期にも必要なのは、介護の一部分だけを見るのではなく、全体を俯瞰して見る意識を持つことです。家族介護は感情に左右されることが多いので、起こる変化に対して冷静に対応し、安定した介護が続けられる余裕を持つようにしましょう。