
入浴は体の清潔を保つだけでなく、心身ともにリラックスできる大切な時間です。高齢になっても入浴を毎日欠かさないという方も多く、湯につかる喜びや楽しみは日本人特有の文化といっても過言ではありません。
しかし、身体的な問題が生じて介護が必要になってくると、自宅のお風呂に入ることができなくなり、清潔を保つことも難しくなっていきます。そんなときに介護保険サービスで利用できるのが訪問入浴介護です。
今回の記事では訪問入浴介護のエピソードを交えながら、概要や費用、注意点などについて詳しく解説します。
訪問入浴介護はどんなサービス?
訪問入浴介護は、自力で、あるいは介助があっても入浴が困難な方に対して、専門のスタッフが浴槽やお湯を積んだ入浴車で訪問します。スタッフは居室に浴槽や機材を持ち込み、準備から実際の入浴、後片付けまでを手早く行います。利用者の身体状況に合わせた安全で快適な入浴を提供することを目的としています。
訪問する入浴メンバーは3名

基本的に訪問入浴介護は、利用者の自宅をスタッフ3名が訪問します。
(予防介護訪問入浴介護の場合は看護職員と介護職員が各1名ずつ訪問します)
役割分担は以下の通りです。
- 看護職員 :バイタルチェック、利用者の健康管理、必要な医療的ケア
- 介護職員①:洗体、洗髪、着替えなど、入浴全般の介助
- 介護職員②:車の運転、浴槽の設置や片付け、機材の準備と片付け、介護職員①のサポート(オペレーターとも呼ばれている)
訪問入浴介護は看護師が呼吸や意識の状態などを常に観察しながら入浴するため、体調が不安定な方でも安心して利用できます。衣服の着脱や浴槽までの移動も3名で対応するため、体力がない方や病状的に動くことが困難な方でも入浴が可能です。また、入浴時に全身を確認できるので、皮膚トラブルや身体状況の変化に気づきやすくなります。
浴槽や機材の運搬・設置を担当する介護職員は男性が多く、同性介助を求められた場合は入浴が開始されたら居室を退出するなどの配慮も行います。最近では、このポジションで活躍する女性も増えています。
サービスの手順と所要時間
訪問入浴介護は、利用者の体に負荷をかけず、安全も考慮して行います。そのため、利用者の移動距離を短くするために、ベッド脇で入浴するケースも多くあります。浴槽設置のため広いスペースが必要と思われますが、実際は畳が2畳ほどあれば十分です。
以下が入浴の手順です。
- 入浴前の健康チェック(体温、血圧、脈拍など)を行い、入浴できる状態かを看護職員が確認・判断します。
- 健康状態に問題がなければ、介護職員が入浴準備を手早く行います。
- 介助で脱衣後、安全な移動方法で浴槽に移動し、入浴が開始されます。
- 洗髪、洗顔、洗身を丁寧に行います。
- 至福のリラックスタイム、ゆったりと湯につかります。
- 最後にシャワーで上がり湯をかけ、ベッドなどに移動します。
- 介助で着衣後、再度健康チェックを行います。
- 片付けをして終了となります。
訪問入浴介護の入浴車はボイラーで沸かしたお湯を積んでいます。入浴を利用する際には、電力と使用した分のお水をいただくことになります。使用する機器や物品は、毎回専用の消毒洗浄液で洗浄します。入浴機材設置のために家具などを移動した場合は、元の場所に戻してから退出します。
タオルやバスタオル、シャンプーやボディソープなどは事業所が用意しますが、指定のシャンプーやボディソープがある場合は家庭で用意することも可能です。
所要時間は45分~1時間程度です。準備や片付けの時間も含まれるため、実際の入浴時間は15~20分ぐらいとなります。
エピソード1
ある利用者は団地の5階に住んでおり、ホースが届かず入浴車から給湯することができませんでした。その場合は、自宅の浴槽に溜めたお湯を使用します。お風呂を沸かしておいてもらう手間は必要ですが、どのような環境でも居室での入浴が可能となります。
1回の利用料金
訪問入浴の利用料金は、基本サービス費と事業所によって異なる加算・減算によって決まります。
【基本料金】
サービス名 | 要介護1~5 | 要支援1・2 |
---|---|---|
基本サービス費 | 1,266円 | 856円 |
部分浴・清拭 | 1,139円 | 770円 |
介護保険サービスの自己負担割合が1割の場合の利用料金となります。負担割合が2割の場合は2倍、3割の場合は3倍の料金となります。体調が悪いなどの理由で入浴できなかった場合に部分浴(半身浴や足浴など)や清拭をおこなった場合は、利用料金が変わります。
【加算・減算】
基本料金に加えて、訪問入浴介護を実施する事業所により、加算があれば増額、減算があれば減額されます。これらは事業所ごとに異なるため、事前に確認しましょう。
訪問入浴介護はこんな方が利用

訪問入浴介護は、以下のような方が主に利用します。
- 自力で入浴することが難しい方
- 浴室の環境や設備が悪く、訪問介護や家族が介助しても入浴できない方
- デイサービスなどの施設に通うことが難しい方
- 医師の診断により、訪問入浴が適していると判断された方(体調が不安定で、看護職員のサポートが望ましい方)
このような方々にとって、訪問入浴介護は非常に有用なサービスです。
Memo
訪問入浴介護を利用するには、以下の条件を満たすことが必要です。
- 要介護1~5の認定を受けている
- 入浴の許可を主治医から得ている(指示書)
※要支援1・2の場合、「浴室が自宅にない」などの条件で介護予防訪問入浴介護を利用することができます。
その他、気管切開、経管栄養、人工肛門、在宅酸素など、医療依存度の高い方も訪問入浴介護を利用することがあります。
エピソード2
90代の方で亡くなる1か月前から寝たきりの状態となりました。デイサービスに行くことを中止し、自宅で訪問入浴介護を利用することになりました。3度目の利用時は呼びかけても反応が鈍く、入浴できるか心配でした。バイタルを測定すると安定していたので、看護職員の判断で短浴にし、部分的に体を洗うのみとしました。ゆっくりと暖かいお湯に入ったときに「はぁ~」と吐息がもれ、表情が満面の笑みに変わりました。
次の日に家族から連絡が入り、入浴した晩に息を引き取ったそうです。訪問入浴介護は看取り期の方が利用することも多く、最後の至福の時間を提供することもある大切なサービスです。

訪問入浴介護を利用する際の注意点
訪問入浴介護を利用する際には、次のような点に注意が必要です。
基本的に医療行為は行えない
看護職員が同行していますが、入浴支援と関連のない医療行為は行うことができません。医療的なケアが必要な場合は、別途訪問看護などを利用する必要があります。
看護職員はバイタルチェック、軟膏の塗布、湿布の貼り換え、健康状態の観察などを主に行います。
本人や家族の希望はハッキリと伝える
訪問入浴介護では羞恥心に配慮した入浴が徹底されており、タオルなどを上手に使って入浴を実施します。それでも裸になることに抵抗を感じる場合は、希望に応じて同性介助ができるように調整してくれる事業所もあります。
利用者本人や家族の希望・要望は、事前にしっかりと訪問入浴介護のスタッフに伝えましょう。細かな要望がある場合も、遠慮せず伝えることが大切です。
キャンセル手順や料金を確認しておく
訪問入浴介護を利用する方は体調が不安定な場合も多く、キャンセルすることもめずらしくありません。キャンセルの手順やキャンセル料についても、事前に確認しておきましょう。
事業所によってサービスに違いがある
訪問入浴介護の提供は、事業所によってサービスの特徴に違いがあります。
以下はサービスの特徴例です
- 温泉のお湯を使用している
- 入浴剤を選ぶことができる
- 高濃度炭酸泉入浴を取り入れている
- 体重測定ができる
- バブルバスを提供している
その他、電子カルテや専用アプリで訪問時間や入浴前後のバイタルなどを記録し、家族やケアマネジャーと共有する取り組みを行う事業所もあります。また、介護職員がマッスルスーツを着用している事業所もあり、さらに安全で質の高いサービス提供の競争が続いています。
エピソード3
抜群に歌がうまい男性の介護職員は、希望があれば入浴中に歌を披露していました。同じように歌うことが好きな利用者の方は、入浴中に大きな声で一緒に歌うことを楽しみにしており、入浴車が来るまでに次に歌う曲を選び練習して待っているほどでした。あるときは、他の入浴スタッフと家族も一緒に大合唱。この事業所の「この人」ならではのサービスでした。
サービス内容は事業所によって異なるため、特徴や違いを調べて利用者に合った事業所を選ぶようにしましょう。
まとめ
入浴は利用者にとってリラックスし、身体を清潔に保つための大切な時間です。訪問入浴介護を利用することで、自宅で安心して入浴できる環境を整えることができます。家族やスタッフと協力し、利用者の入浴時間を快適に過ごせるようサポートしていきましょう。