介護をもっと楽にする 認知症ケア

デイサービスに行きたがらないときにやってみたことあれこれ

デイサービスの利用を嫌がり、順調に通えるようになるまでに時間を要する方は少なくありません。特に認知症の方は、状況の理解が難しくなることで戸惑いや不安が強くなり、デイサービスの導入が難しいことがあります。また、無事にお迎えの車に乗れても、施設に到着すると帰宅願望が強くなり、デイサービスの判断で帰宅してしまうことで、家族のストレスが強まることがあります。

しかし、これらはよくある話で、珍しいことではありません。そして、最終的にデイサービスに通えなかったケースは経験上ありません。今回の記事では、ケアマネジャーとして10年以上勤め、その後デイサービスの管理者を務めた筆者が、実際に行ったアプローチ方法を以下の視点でご紹介していきます。

  • ケアマネジャーとして行ったアプローチ
  • デイサービスで行ったアプローチ
  • 家族ができること

認知症や介護が必要な高齢者(以下、利用者)がデイサービス通所を嫌がる場合、ご家族や介護従事者の方は、ぜひ参考にしてください。

ケアマネジャーとして行ったアプローチ

デイサービスの利用導入時には利用者も納得していましたが、初日に車が迎えに来ると家から出るのを拒んでしまうことがあります。そうなると家族はとまどい、介護から離れられる期待もあったため、ストレスが強まるかもしれません。そのため、デイサービス職員やケアマネジャーは、できるだけ早く利用につながるよう、対策を考えます。

アプローチ1:デイサービスの通所回数を多く設定

利用者の様子からデイサービスの導入がうまくいきそうにないと判断した場合、しばらくは通所の回数を多めに計画します。そうすることで早く慣れてもらい、安定したら徐々に回数を減らしていきます。

特に認知症の方は記憶が曖昧になるため、毎日同じことを繰り返すことが大切です。デイサービスで何をしたか覚えていなくても、「安心できる場所」「楽しい場所」という印象を持ってもらうことで、通所への抵抗が減っていきます。

利用初期に通所の回数を増やすことは、生活のリズムを整え、体力作りや体調を安定させるためにも有効です。

アプローチ2:毎回同じ人に迎えに来てもらう

送迎車で迎えに来るスタッフを限定することで、利用者と顔なじみの関係を築きやすくなります。利用者からの信頼感を高めることで、「あなたが言うなら」と、デイサービスへ通うきっかけとなります。

忙しいデイサービスにとって、この調整は難しいことも多いですが、一部のデイサービスがこのような依頼に対して気持ちよく引き受けてくれました。お迎えのスタッフが利用者を連れ出せた場合、デイサービス到着後もしばらく同じスタッフが担当することで、定期的に通所できるようになったケースもあります。

ある通所を嫌がった利用者の事例です。利用者の住まいとデイサービスの距離が近かったこともあり、初回から数回のお迎えを決まった職員が車いすで行ってくれました。「お散歩に行きましょう」と声をかけて連れ出してくれたのです。ここまでしてくれるデイサービスは少なく、家族共々感謝したことを覚えています。

これは介護サービス全般に言えることですが、例えば1日2回の訪問介護を毎日利用すると決めた場合、毎回違うホームヘルパーが訪問したらどうなるでしょう。1週間で14人のホームヘルパーが交代で訪問すると、認知症でない方でも混乱してしまうことは容易に想像できます。

新しいサービス導入当初は、ある程度関わる人を限定することも、対人援助において重要です。これにより、利用者が安心し、サービスに慣れやすくなります。

アプローチ3:ケアマネジャーも一緒に行く

通所の初回やその後数回、見送りで顔を出すことはよくあります。場合によっては一緒に送迎車へ乗り込むこともありました。知っている顔が同行することで、利用者に安心感を与えることができます。また、ケアマネジャーが同行することで、利用者の通所状況を観察し、家族への報告や今後のケア方針の参考にすることもあります。

アプローチ4:送り出しのヘルパーを入れる

デイサービスの送迎車が到着する30分ぐらい前に、ホームヘルパーに来てもらい、出掛ける準備を手伝ってもらいます。家族が準備を手伝うと拒否が強くなるのに対し、ホームヘルパーが相手だと気遣いもあり、送迎車にスムーズに乗り込むことができる場合があります。

ある利用者はデイサービスに行くことを拒み続けていました。家族は毎回説得して送り出すのが負担になっており、デイサービス通所を諦めようと思っていました。そこで、朝の送り出しで訪問介護(ホームヘルパー)を利用することにしました。すると、利用者は問題なく身支度を済ませ、送迎車に乗り込むことができました。家族はあまりの違いにショックを受けていましたが、2カ月後には家族の送り出しでも嫌がることがなく、通所を継続することができました。

ホームヘルパーが入ることで家族の負担を軽減し、プロの手助けでスムーズな送り出しが可能になります。通所が習慣化すると、家族の送り出しでも問題なくデイサービスへ行くことができるようになるケースも多くあります。

デイサービスで行ったアプローチ

ケアマネジャーとして働いていた時よりも、デイサービス勤務時の方がさまざまな工夫ができました。拒否が強いほどやる気を出すスタッフもおり、チームワークで乗り切れたケースも多々ありました。

アプローチ1:相性の良さそうな職員が迎えに行く

ケアマネジャーとしてデイサービスへ依頼していた方法ですが、サービスを提供する側となることで、より多くのアプローチをすることができました。

事前にデイサービスを嫌がりそうな様子が見られた場合は、迎えに行くスタッフを厳選します。性別や年齢を考慮し、中には連れ出すのが得意なスタッフもいます。また、場合によっては送迎専門の年配ドライバーの方が受け入れやすいこともありました。

このように、個別の状況に応じて柔軟な対応を行うことで、利用者が安心してサービスを利用できるように調整していました。

アプローチ2:誘い上手な利用者に協力してもらう

スタッフで誘い出しがうまくいかないときは、デイサービスを利用されている方にも協力していただくこともありました。デイサービスに行きたがらない方と送迎ルートを一緒にし、送迎車に乗れるよう、声掛けをしてもらいます。みなさん、ノリがよく、喜んで協力してくれました。

デイサービスに行きたがらない方の自宅玄関から見える位置に送迎車を停め、同年代の利用者が車から声を掛けられるようにしました。「一緒に行きましょう、楽しいですよ」と話し掛けてもらうと、いつもは眉間にしわを寄せていた方が、笑顔で車に乗り込みました。その時の家族のホッとした表情が印象的でした。

同年代の方に誘われることで「断りづらさ」や「良い顔をする」一面もあったかもしれませんが、うまくいくことの多い方法でした。

このやり方は、行きたがらない方へ「歓迎されている」と意識づけることができるようです。

アプローチ3:時間をずらしてお迎えに行く

デイサービスの通所に慣れるまで、よく行っていた方法です。他の利用者を同乗させたままお迎えに行くと、誘い出すのに時間がかかり、すでに乗車している方が待ちくたびれてしまいます。そのため、時間をずらしてお迎えに行くのです。

利用者のペースに合わせて柔軟に対応できるため、朝の準備が苦手な方や特定の時間に活動するのが難しい方も通所しやすくなります。ただし、継続的に時間をずらしたお迎えは難しく、慣れてきたら送迎ルートに合わせた時間に調整できるように働きかけます。

家族ができること

家族ができるサポートは、デイサービスの利用において非常に重要です。逆にデイサービスへの通所を嫌がる方に対して、家族がしないほうが良いこともあります。

サポート1:朝食と水分をしっかり摂っておく

デイサービスに通所する方の中で、ときどき朝食も水分も摂らずに来られる方がいます。そうなると施設に到着したときから元気がなく、特に夏場は送迎車の中で脱水を起こすこともあります。

認知症であれば精神状態にも影響が出て、通所の拒否や帰宅願望につながります。そのため、朝食と水分をしっかり摂るように、常に家族へお願いをしています。

サポート2:便秘を解消しておく

便秘を起こしていると認知症の症状が悪化することがあります。便秘は気分や行動に大きな影響を与えるため、解消が重要です。ただし、デイサービスを利用して体を動かさないと改善しない便秘もありますので、在宅介護では食物繊維の多い食事や、目安として1日1,500mlの水分を摂るようにしましょう。

家族から「昨日の夜に下剤を飲ませたので、デイサービスで便が出るかもしれません」と言われることがありますが、下痢が1日続くこともありるので、できるだけ下剤に頼らず排便をコントロールすることが望まれます。

サポート3:説得しようとしない・責めない

プレッシャーを与えないように心掛けます。説得や責めてしまうと感情的になり、逆効果になることもあります。認知症であれば状況を理解しきれず、説得することでさらに混乱を招いてしまいます。

家族が介護関係者に迷惑を掛けてしまった負い目から本人を責めてしまうこともあり、そうなると自信をなくし、ますます閉じこもりの生活になることも考えられます。

サービスの導入がうまくいかないと、家族としては苛立ちや焦りを感じることもありますが、状況は常に変化していきます。辛抱強く・粘り強く、デイサービス導入であれば2週間~1カ月を目安に、介護関係者を頼りながら関わっていきましょう。

サポート4:デイサービスの選定も大切

デイサービスを利用する本人の好みやマッチしそうな雰囲気を考慮して通所する施設を選ぶことも大切です。

比較的元気で認知症でない方であれば、重度な方が多いデイサービスよりは、軽度者向けの活動性のあるところの方が好まれます。静かな場所を好むのであれば、少人数のデイサービスが良いかもしれません。中には料理ができたり、機能訓練に力を入れているデイサービスもあるため、人柄や好みなどをケアマネジャーに伝え、利用する本人が興味を持ちそうな施設を選ぶことも大切です。

デイサービスの利用を嫌がっていた方の趣味を聞いたところ、温泉が好きでよく出かけていたことがわかりました。あるデイサービスは日差しの差し込む大浴場が自慢で、季節に合わせて柚子湯や菖蒲湯を楽しむことができました。紹介したところ、お風呂を楽しみにデイサービスへ通うようになりました。

まとめ

デイサービスを利用するにあたって、利用者の心理的なハードルをいかに低くするかが重要です。家族やケアマネジャー、訪問介護、デイサービスなどが連携し、利用者の安心感を第一に考えた対応が求められます。粘り強く、辛抱強く取り組むことで、少しずつでも利用者がデイサービスに前向きになってくれることを目指しましょう。

経験に基づいたこれらの工夫がお役に立てば幸いです。

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