義理の親を介護することは、多くの人にとって大きな責任とともに、複雑な感情が入り交じる経験です。この役割を担うことになったと覚悟したとき、どのような対策が必要になるのでしょうか。
この記事では、義理の親を「子の妻」が介護する際に直面するであろう問題と、その対策について紹介します。
「嫁」という表記について
本記事では、理解を深めるために一部で「嫁」という表記を使用しています。しかしながら、この言葉は現代の女性の社会進出が進む価値観にはそぐわない面もあります。この点にご留意ください
義理の親を介護することになったけど、納得できないこと
義理の親を介護することになった際、多くの方が感じるのは、さまざまな納得できないことへの戸惑いや不安です。仕方なく、あるいは諦めの気持ちで介護に携わる人も少なくありません。
「長男の嫁」という理由で介護をすることになった
「介護は(長男の)嫁がやるべき」と言われることもありますが、現実はそう簡単ではありません。現代社会では、個人の自由やライフスタイルが多様化しており、このような考え方は時代遅れとされています。しかし、一部の地域やコミュニティでは依然として「嫁」が介護をするという考え方が根強く残っていることもあります。特に介護が必要な状況では、その役割を期待されることが少なくありません。
このような状況に直面すると、キャリアや生活プランに大きな影響を受け、精神的な負担が増していきます。また、家族や親戚からの圧力や期待に応えるために義務感や罪悪感を感じることもあり、「嫁」として介護を引き受けることに不満や葛藤が生じることがあります。
夫との価値観の違い
義理の親に介護が必要になると、夫婦の価値観の違いが明らかになることがあります。最近では「自分の親は自分で介護する」という考えが増え、男性も積極的に介護に関わるようになっています。しかし一方で、「介護は女性の役目」とプレッシャーをかける場合や、夫が仕事を理由に動かず、妻が介護をするケースも見られます。
夫婦として対等な立場だったのに、介護を通してバランスが崩れることは珍しくありません。
夫の家族からのプレッシャー
介護のプレッシャーは夫からだけとは限りません。夫の兄弟姉妹や叔父、叔母からの圧力が重なることもあります。夫に対しては愚痴や不満を言えても、周囲の家族や親せきには同じようなことを言いにくいでしょう。
また、介護について「口は出すけど手は出さない」ような非協力的な状況になると、精神的なストレスが非常に大きくなります。「嫁」として介護の大部分を担っているのに、決定権や判断力を与えられずに苦しむケースは未だに多く見られます。
世間体、仕方なさ
小さなコミュニティでは、世間体を気にして「嫁」という立場が介護をしなければならない状況があります。近所に噂が広がることを恐れて、介護保険サービスの利用を拒む高齢者もいます。
外部の専門職の介入がなければ、専門的な介護が受けられず、利用者の状態が悪化する可能性があります。そのような状況で介護が「嫁」個人に集中すると負担が大きくなり、心身ともに悪影響が出ることがあります。
さらに、小さなコミュニティならではの悩みも生じます。
- 介護サービスの事業所数が少なく、選択肢が限られる
- 介護サービスの従業員が近所の人なので、必要以上に気を遣う
- ケアマネジャーが親戚の知り合いで、本音で相談できない
- デイサービスやケアマネジャーを変えたくても、付き合いからできない
- 狭いコミュニティで噂がすぐに広がる
- 家族に認知症がいると知られたくないので、介護サービスを拒否している
これらは一部の例に過ぎませんが、地方都市や小さなコミュニティでは、こうした悩みが都市部よりも多く見られます。
次に、モヤモヤを抱えながらも義理の親の介護を引き受けざるを得なくなった介護者のために、具体的な対策を考えてみましょう。
それでも介護に向き合うあなたへ:解決のヒント
介護は心身ともに負担が大きく、多くのプレッシャーやストレスを伴います。特に、義理の親の介護を引き受ける状況では、自分自身の気持ちや生活が後回しにされがちです。しかし、そんな状況でも負担を減らすための工夫や、効果的に介護と向き合うためのヒントがあります。
解決のヒント①:夫と本音で話す
介護については、夫と本音で話し合うことが重要です。お互いの気持ちや意見を率直に伝え合い、協力して介護を行うための理解を求めましょう。
【話し合いのポイント】
- お互いの本音・気持ちを正直に話す
- 納得できないことは率直に伝える
- お互いが納得できるまで、話し合いを繰り返す
- 妥協点を見つける
【理解を深めるために】
- 感情的にならないように冷静に話す
- 相手の意見を否定せず、まずは受け入れる姿勢を持つ
- 解決策を一緒に考える
介護に関する話し合いは、一度ではなく、何度も繰り返すことが大切です。介護は長期間にわたる場合が多く、その間にお互いのライフスタイルも変化していきます。子育てや仕事などの状況は、1年後よりも10年後の方がはるかに変わっているのは当然のことです。
さらに義理の親を介護する場合は、夫婦で話し合ったことを夫から親や親せきに伝えるほうが、物事が簡単に解決する場合も多くあります。お互いの立場を明確にすることも含め、時間をかけて、より良い方法を模索していきましょう。
解決のヒント②:「介護は嫁がやるべき」に抗わない
義理の親や親せきにこのようなことを言われると、何とも言えない虚しさに襲われることがあります。介護が始まったら仕事を辞めるのは女性の方だと堂々と言い切る人も少なくありません。
人の考えを変えることは非常に難しく、特に古い価値観や固定観念に根ざしている場合はなおさらです。無理に意見を変えさせようとするよりも、冷静に対応し、自分の立場や気持ちをしっかり伝えることが重要です。
しかし、話し合いをすることすら難しい状況もあるでしょう。その場合、抗わなくても、その考えに同意する必要はありません。関係を崩さない程度に「受け流す」あるいは「聞き流す」ようにしましょう。重要なのは、時代遅れの意見に自分自身が傷つかないようにすることです。聞いても仕方のない意見には耳を貸さず、その場をやり過ごしましょう。
解決のヒント③:最善の介護を選ぶ
世間体から嫁に介護を求めたり、近所の噂を恐れて介護保険サービスを利用しない高齢者もいます。しかし、介護は他人の視線や噂に振り回されず、最善の方法を選ばないと再び自立することが難しくなっていきます。
現実的な選択が重要です。介護保険サービスや専門職の支援を受けることで、身体機能の回復や精神状態の安定、介護の負担を軽減することができます。世間体よりも、介護する側もされる側も、生活の質を優先することが大切です。
解決のヒント④:信頼できる介護関係者を増やす
義理の親などが介護保険サービスの利用を拒む場合、交渉は担当ケアマネジャーや介護サービスのスタッフに依頼しましょう。介護の専門職は交渉事にも長けており、適切なアプローチで説得を試みることができます。彼らの経験と知識を活用し、無理なくサービスを受け入れてもらえるように調整します。
さらに、日々の不安や悩みも打ち明けましょう。家庭の内情は伝えなければ気付かないことが多いので、話すことで理解を求め、具体的な支援をしてもらえるようにしましょう。
小さなコミュニティでの相談が難しい場合
小さなコミュニティでは、担当ケアマネジャーや介護スタッフが知り合いである場合、悩みや不安を相談しにくいことがあります。そのような場合は、ケアマネジャーや利用するサービス事業所の変更を検討してもよいかもしれません。
親せきがらみの紹介などで変更が難しい場合は、自分が安心して相談できる場所を別に確保することが大切です。地域包括支援センターや匿名で相談できる窓口、カウンセラーへの相談など、プロフェッショナルな視点から助言をもらえる場所を見つけましょう。
解決のヒント⑤:支援ネットワークの活用や仲間を作る
自分と同じような立場、同じような境遇の人とつながれることは、心の支えになります。介護者同士のサポートグループがあれば参加してみましょう。共感やアドバイスを得ることで、孤立感を軽減できます。仲間と情報を共有し、困ったときには助け合える関係が築けると、心の安定にもつながります。
解決のヒント⑥:介護を見える化する
介護の記録や金銭の出入りをアプリで管理し、家族や親せきと共有することも良い方法です。また、SNSを活用して連絡のやり取りをすることも効果的です。つまり、介護の見える化です。
「口は出すけど手は出さない」人達の多くは、現状を十分理解しないで話すことがあります。
例えば、義理の親が認知症であれば、その様子を共有したり、介護サービス事業所から提供してもらう連絡帳や申し送りなどを画像でアップすることで状況の理解が深まります。口出しが有効なアドバイスや手助けに変わることもあるので、「介護の見える化」も検討してみましょう。
自分自身を大切にする
介護を行う中で、自分自身を大切にすることも忘れてはいけません。自分の心と体の健康を守ることで、気持ちのバランスが取れた介護ができるようになります。以下のポイントを意識してみましょう。
- 境界線を設定する
自分がどれだけの時間とエネルギーを介護に費やせるかを明確にし、それを超える要求には断る勇気を持ちましょう。
- スケジュールを設定する
介護の時間だけでなく、自分の休息や趣味の時間もスケジュールに組み込みましょう。子育てを同時に行っている場合は、子どもの行事やイベントを優先したくなりますし、働いていれば責任を伴う業務が当然生じます。これらをうまくこなすためには、スケジュール管理が欠かせません。
- ストレス解消とレスパイトの確保
ストレス管理は重要で、一人ひとりに合った解消法を見つけることが大切です。自分がリラックスできる時間や活動を見つけ、気持ちのバランスを保ちましょう。
さらに、レスパイト(介護の休息期間)として介護サービスを利用することも考えましょう。ケアマネジャーは介護者のレスパイトの重要性を理解しているため、適切なサポートを提供してくれます。介護の限界を感じる前に、早めに相談しましょう。
- 感情のケアも行う
感情を無視せず、自分の気持ちを表現することも大切です。信頼できる人に話を聞いてもらったり、日記をつけたりすることで、感情の整理ができます。時には愚痴や怒りなども抑え込まずに適切な方法で発散しましょう。
最後に
日本の法律では、「嫁」や「婿」に義理の親を介護する義務はないと位置付けています。もし「長男の嫁」として配偶者の親の介護を求められても、拒否することができます。ただし、民法では「同居の親族や夫婦は、互いに協力し扶助しなければならない」という規定もあります。
これらのことを踏まえ、それでも義理の親を全面的に介護することになったら、自分自身を大切にしつつ、できる範囲を見極めた介護を行うようにしましょう。大切なのは限界まで無理をしないこと、必要であれば「できない」とはっきりと伝えるマインドを常に持つことです。