介護が必要になると要介護認定を受け、介護保険サービスを利用することができます。自己負担額は1〜3割とされていますが、毎月の支払いを見ていくと、その負担が大きいことに気づくでしょう。そこで頼りになるのが「高額介護サービス費」です。
この記事では、高額介護サービス費の仕組みや申請方法、利用する際のポイントについて詳しく解説します。
高額介護サービス費とは
高額介護サービス費は、介護サービスを利用する際の費用負担を軽くするための制度です。毎月の介護サービス費が一定の限度額を超えると、その超過分を国や市区町村が負担してくれます。
例えば、1ヶ月にかかる介護サービス費が高くなると、自己負担額も増えてしまいます。この制度を使うと、自己負担額が限度額を超えた場合に、その超過分が払い戻されるので、経済的な負担がぐっと軽減されます。
こんな方におすすめの制度
- 介護サービスを多く利用している方
- 毎月の介護費用が家計に大きな負担をかけている方
- 介護費用を少しでも節約したいと考えている方
自己負担の上限額(月額)
高額介護サービス費の負担上限額は、所得や世帯の状況によって異なります。2021年8月の制度改正により、負担限度額が次のように定められました。
【第1段階】 ①生活保護を受給している方等 ②15,000円への減額により生活保護の被保護者とならない場合 ③市区町村民税世帯非課税の老齢福祉年金受給者 | ①15,000円(個人) ②15,000円(世帯) ③24,600円(世帯) 15,000円(個人) |
【第2段階】 市区町村民税世帯非課税で公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下 | 24,600円(世帯) 15,000円(個人) |
【第3段階】 市区町村民税世帯非課税で第1段階及び第2段階に該当しない方 | 24,600円(世帯) |
【第4段階】 ①市区町村民税課税世帯~課税所得380万円(年収約770万円)未満 ②課税所得380万円(年収約770万円)~690万円(年収約1,160万円)未満 ③課税所得690万円(年収約1,160万円)以上 | ①44,400円(世帯) ②93,000円(世帯) ③140,100円(世帯) |
高額介護サービス費の計算例
どれくらいの金額が戻ってくるのか気になるところです。具体的に計算してみましょう。
世帯に介護サービス利用者が1人の場合
自己負担額(介護サービス費)-負担限度額(高額介護サービス費)で計算します。
- 自己負担額:30,000円
- 負担限度額:24,600円
30,000円-24,000円=5,400円
高額介護サービス費として払い戻される額は5,400円です。
世帯に介護サービス利用者が2名以上の場合(世帯合算)
世帯の合計負担額(介護サービス費)-世帯限度額(高額介護サービス費)で計算します。
- 妻の自己負担額:30,000円
- 夫の自己負担額:60,000円
- 世帯負担限度額:44,400円
(30,000円+60,000円)-44,400円=45、600円
高額介護サービス費として払い戻される額は45,600円です。
Memo
払い戻される額は45、600円ですが、振り込みはそれぞれの口座に振り込まれます。
その場合の計算式は以下となります。
世帯の払戻額×個人の負担額÷世帯の合計負担額
【妻の口座に払い戻される額】
45,600円×30,000円÷90,000円=15,200円
【夫の口座に払い戻される額】
45,600円×60,000円÷90,000円=30,400円
妻には15,200円、夫には3400円払い戻されます。
申請方法
高額介護サービス費を利用するためには、まず住んでいる市区町村に申請を行う必要があります。介護サービスの自己負担額が上限を超えると、市区町村から支給申請書が自動的に送られてきます。一度申請をすれば、その後は手続き不要で口座に自動的に払い戻しが行われます。
この制度は手続きが簡単で利用しやすいですが、制度自体を知らないと「介護サービス費用を無理に抑える」などの悪影響が出ることがあります。そのため、この制度についてしっかりと理解し、正しく利用することが重要です。
手続きの手順
- 市区町村から対象者に高額介護サービス費のお知らせと支給申請書が送られてきます。
- 申請書に必要事項を記入し、その他の書類と一緒に市区町村に返送します。
- 審査が通ると「支給決定通知書」が届き、超過分の介護サービス費が払い戻されます。
申請時に必要なもの
- 高額介護(介護予防)サービス費支給申請書
- 介護保険証被保険者証
- マイナンバーカード
- 振込先がわかるもの(本人名義)
市区町村によっては、印鑑が必要だったり、身分証の提示を求められたりするなど、申請手続きが異なる場合があります。事前に市区町村のホームページや申請書の内容をよく確認しましょう。 ※電子申請が可能な市区町村も増えています。
高額介護サービス費の注意点
高額介護サービス費を利用する際には、いくつかの注意点があります。この制度を効果的に活用するために、事前に知っておくべき重要なポイントを確認しておきましょう。
対象とならない介護サービスがある
介護保険サービスであっても、高額介護サービス費の払い戻し対象にならないものがありますので、ご注意ください。
- ポータブルトイレや入浴補助用品などの福祉用具購入費
- 手すり設置や段差解消などの住宅改修費
- 施設入所における食費や居住費(滞在費)、日常生活費、差額ベッド代
- 介護保険の利用限度額を超えた全額自己負担の費用
これらの項目が高額介護サービス費の対象になると誤認しないよう、計画的にお金を管理しましょう。
支給方法は2通り
支給には「本人償還払い」と「受領委任払い」があります。
- 本人償還払い:通常の支給方法で、自己負担額を全額支払った後に払い戻される形式です。
- 受領委任払い:介護保険施設の協力があれば利用できます。受領委任払いでは、高額介護サービス費が施設に直接支払われるため、利用者は自己負担上限額のみを支払えば済みます。
申請期間はいつまで?
介護サービスが提供された月の翌月初日から2年間が申請期間です。この期間を過ぎると、申請することができなくなります。市区町村から申請書が届いたら、忘れずに手続きを行いましょう。
支給はいつ?
介護保険サービスを利用した翌々月に申請書が送付されます。その後、申請から支給まで1〜2か月かかるため、最短で3〜4か月はかかると考えましょう。
書類や領収書は保管する
「支給決定通知書」や「介護サービスの領収書」は、確定申告の医療費控除に必要ですので、大切に保管しましょう。介護サービスの中には医療費控除の対象となるものがあり、高額介護サービス費として受け取った金額は、医療費控除の計算から差し引く必要があります。
確定申告の際に混乱しないように、書類や領収書は丁寧に保管しておくことが大切です。
最後に
高額介護サービス費は、介護サービスの利用に伴う経済的負担を軽減するための重要な制度です。制度の仕組みや申請方法を理解し、適切に活用することで、安心して介護サービスを利用することができます。この基本知識を押さえて、より良い生活を送るために役立ててください。