元気だった親が突然の病気やケガ、認知症などで介護が必要になったとき、どうすればいいのでしょうか。きっと、戸惑うことばかりです。さらに、介護者が働いている状況であれば、制約された時間の中で何とかしなければなりません。
忙しい日常の中で、働きながら行う介護には大切なポイントがいくつかあります。自己判断で良かれと思い行った介護が裏目に出てしまうこともあるので、仕事と介護を上手に両立できる情報はなるべく集めておきましょう。
今回は仕事と介護を両立する上でやってはいけないことを、事例とともにまとめました。
これはNG①:介護をやりすぎてしまう
親に突然介護が必要になったときに、「いい機会だから親孝行しよう」という気持ちになるかもしれません。しかし、親を大切にしすぎてしまうと思わぬ結果を招くことがあります。
ケース1
高齢の母親が肺炎で入院し、退院後に日常生活の一部の動作にサポートが必要となりました。息子のAさんは親孝行の気持ちから母親を支えたいと思い、10日間仕事を休み、家事全般を担いながらなるべく安静に過ごせるように介護をしました。
1週間ほどたつと母親はトイレに行く距離も歩けなくなり、車いす生活となりました。介護の負担が増え、Aさんは職場に復帰する目途が立たなくなりました。
大切にしすぎることで筋力が低下する
筋力の伸縮が行われないような寝たきりの状態でいると、1週間で約3~5%、2週間で約10%の筋力が低下すると言われています。寝たきりの期間が長くなるほど、筋力低下が進行しやすいとされています。
過度な安静や体を動かすことが少なくなると、筋肉だけでなく関節の動きも悪化していきます。こうなると活動性が失われ、さらに筋力が落ち、全身の機能が低下するという悪循環に陥ります。
ケース1の場合
Aさんの適切な介護は、母親のできない部分のみサポートし、それも徐々に減らしていけるようにすることでした。さらに、介護保険サービスを利用して体力が向上するようなデイサービスに通うなど、回復と悪化予防のために適切なサービスを利用することが重要です。どのような状況であっても、高齢者本人ができることは任せて、見守る姿勢を保つことが自立への近道になります。
「親の介護はやりすぎない」が鉄則になります。適度なサポートと専門家の助けを借りながら、親の自立を促し、介護者自身も無理のない範囲で介護を続けることが大切です。
これはNG②:仕事を長期間休み、介護に専念
介護のために長期休暇をとるのは、仕事と介護の両立を難しくする要因となります。長期間仕事を離れることで、職場復帰が困難になることがあり、経済的な負担も増します。
ケース2
Bさんは2年ぶりに両親のもとへ帰省しました。家に入るとゴミだらけで悪臭が漂い、母親は認知症を発症しており、父親も体調がすぐれないことから、生活が破綻していました。Bさんは長期休暇を取り介護に専念することにしました。
1カ月後に仕事に復帰しようとした際、両親が介護保険サービスを拒否し、Bさんは介護から抜け出せなくなってしまいました。結果、仕事に復帰できず、携わっていたプロジェクトのメンバーからも外されてしまいました。
介護のために長期休暇を取るのはNG
介護のために長期休暇をとり介護に専念すると、その状況から抜け出せない可能性が高まります。その理由は3つあります。
- 親が家族に依存してしまう:長期間の家族介護は親が依存する原因になり、介護者がいないと日常生活が成り立たなくなる可能性が高まります。
- 介護保険サービス導入のタイミングが遅れる:家族が長期間にわたり介護に専念してしまうと、「身内の介護がいい」と、介護保険サービスの導入を拒まれることがあります。さらに体を動かす機会が減ることで重度化しやすくなり、回復の機会を失うことになります。
- 介護者自身が仕事に復帰しづらくなる:長期休暇を取ることで、仕事への復帰が困難になり、経済的な負担も増大します。仕事と介護のバランスを取ることが難しくなり、介護離職の原因となります。
これらの理由から、介護のために長期休暇を取るのは避け、早いタイミングで介護保険サービスを利用しながら、仕事と介護を両立させることが重要です。
ケース2の場合
Bさんは帰省して異変に気づいた時点で、地域包括支援センターに相談する必要がありました。早期に介護保険サービスを導入し、ケアマネジャーと相談しながら適切な支援を受けることで、両親の生活を安定させることができます。介護保険サービスを拒む場合は、ケアマネジャーや介護サービス関係者に説得を依頼しましょう。
Bさん自身は早めに職場へ復帰し、上司や人事関係者と相談しながら「介護休暇」や「介護休業」などの制度を計画的に利用できるようにします。これにより、仕事と介護が両立できる体制を構築することができます。
介護と仕事を両立させるためには、早期に適切な支援を受けることが不可欠です。計画的に介護保険サービスを導入し、周囲の協力を得ながらバランスを保って介護を続けることが、介護者自身の心身の健康を守るためにも重要です。
これはNG③:リモートワークの落とし穴
リモートワークを選択して介護を両立させるのは、一見便利に見えますが、実際には多くの問題を引き起こすことがあります。
ケース3
Cさんはリモートワークをしながら、認知症の父親の介護を行っていました。仕事中に父親が徘徊したり、危険な行動を取ることがあり、Cさんは仕事と介護の両方に目を配ることができませんでした。この結果、Cさんの精神的な負担が増し、体調を崩してしまいました。
境界線の曖昧さ
リモートワークの場合、常に介護ができる体制になってしまいます。そのため、頻繁に仕事を中断することになり、集中することが難しくなります。結果として、仕事の効率が低下し、最終的にはパフォーマンスの質にも影響を及ぼします。
さらに、仕事と介護の境界線が曖昧になり、どちらにも全力を注げない状況になります。精神的なストレスが増す原因となり、長期的には健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。
ケース3の場合
【ケース3の場合】
仕事と介護を両立させるためには、適切な支援を受けながら、バランスを保つことが重要です。
Cさんはリモートワーク中に認知症の父親の介護を行うのではなく、介護保険サービスを利用することで、介護の質を保ちながら仕事に集中できる環境を整える必要があります。特にデイサービスの利用は送迎があり、5~6時間ほど介護から離れることができます。
リモートワークは仕事と介護の両立に良かれと導入する企業が少なくありません。しかし、常に介護にできる環境となり、逆に介護負担や精神的なストレスが増してしまいます。リモートワークでも介護保険サービスを積極的に活用し、介護との距離を保つようにしていきましょう。
考え方を変える・見方を変える
仕事と介護を両立させるためには、考え方や見方を変えることが非常に重要です。人口構造の変化により、50年前の介護の考え方は現代には通用しません。今の時代に合わせた新しい考え方にアップデートする必要があります。ここでは、仕事と介護の両立に役立つ「新しい視点」を紹介します。
出社はレスパイトになる
出社することは、介護から一時的に解放されるレスパイト(休息)の時間となります。職場で仕事に集中することでリフレッシュし、心身の負担を軽くできます。仕事仲間とのコミュニケーションや友人とのランチを楽しむことで、仕事は自分自身の時間を大切にする機会にもなります。
出社中はデイサービスなどの介護保険サービスを利用し、介護を専門家に任せることで、安心して仕事に専念できる環境を整えましょう。
介護をプロジェクトとして考える
介護を一つのプロジェクトとして捉えることで、計画的かつ効率的に進める思考に切り替わります。ケアマネジャーや介護の専門職と協力し、目標やタスクを明確にして、役割分担を行います。定期的に進捗(しんちょく)を確認し、必要に応じて計画を見直すことで、効果的な介護を実現します。
さらに、介護の専門家や家族と連携し、最適な介護方法や支援を見つけることもポイントとなります。
例えば、デイサービスや訪問介護を利用することで「介護をアウトソーシング」します。家族間の役割を明確にし、介護に協力できない家族には金銭的な負担をしてもらうなど、考え方を変えるだけで効率的で誰もが納得できる介護体制が構築できます。
また、時間管理のスキルやプロジェクトマネジメントの手法を活用して、仕事と介護の両立を図ることも効果的です。
介護で親孝行はしない
現代では高齢者を支える側が減少しているため、家族だけで介護を行うのは現実的ではありません。親孝行の気持ちから過度に介護をすると、介護者自身の負担が増え、親の自立を阻害するだけでなく、仕事との両立も難しくなります。
「介護は家族がやるべき」「介護は育ててもらった恩返し」「介護は親孝行だ」といった考え方は、約50年前の、現役世代10人で1人の高齢者(65歳以上)を支えていた時代のものです。現代では約2人で1人の高齢者を支えているため、「介護は親孝行」という考え方は通用しません。
親孝行は愛情や感謝の気持ちで示し、食事や会話など、一緒に過ごす時間を楽しむことに力を入れましょう。
まとめ
仕事と介護を両立させるためには、過度に介護をしないこと、介護のために長期休暇を取らないこと、そしてリモートワークでの介護の限界を理解することが重要です。
介護に対する考え方や見方を今の時代にアップデートし、仕事と介護を両立するための新しい視点を持つことも欠かせません。
適切な支援を受け入れ、効率的な介護方法を取り入れることで、仕事と介護のバランスを上手に保ち、両立を目指しましょう。