介護者が感じる不安には「体の不安」と「気持ちの不安」があります。介護は数年にわたるかもしれず、長い間不安が重くのしかかることで、慢性的な疲労感やうつ症状を引き起こす原因になるかもしれません。
さらに介護を行う世代は50代以降が多く、体力の低下や健康状態の変化が避けられない年代です。介護による慢性的な疲労やストレスは大きな問題であり、更年期障害と重なることで、自律神経の不調を訴えることも少なくありません。
介護者自身が健康や生活を犠牲にしない介護方法を、事例を通して紹介していきます。
身体的な介護で生じるー体の不安・解決法ー
介護は着替えや入浴、排せつなど、日常生活で必要な介助のほか、通院や外出の付き添いなど、体力を要する場面が意外と多くあります。
さらに、家族の多くは介護の初心者です。介護のプロ(介護職)であれば、ボディメカニクスという介護技術を学びますが、家族介護者にはそのような機会がありません。
Memo
ボディメカニクスとは、人体の動きを効率的かつ安全に行うための技術を指します。簡単に言うと、骨や筋肉に負担をかけず、力を効率的に使うための動作や姿勢のテクニックです。例えば、「重い物を持ち上げる時は腰を使わずに膝を曲げて持ち上げる」といった方法が含まれます。
介護を要する方の状態が悪くなればなるほど身体的な介護が増え、介護者の足腰に負担がかかってきます。腰痛を悪化させたり、手首や背中に痛みが生じることもあり、介護ができなくなる場合もあります。
体の不安に対しては、以下の解決方法を参考にしてみてください。
体の不安・解決法①:介護保険サービスを利用する
介護サービスを利用して身体的な負担そのものを、可能な限り解決していきましょう。
日帰りのデイサービスでは入浴や昼食も含めた日常的な世話や、適度な運動、専門職による機能訓練などを提供しているのでおすすめです。特に同居の場合は、定期的に離れている時間を確保する意味でも利用するとよいでしょう。
介護保険施設などに泊まりで利用できるショートステイも、一定期間介護から離れることができるます。定期的に利用すると「介護休み」が確保できるので、おすすめです。
ケース1
右大腿骨を骨折したAさんは、入院中のリハビリでは歩行器を使って歩くことができましたが、退院後は妻と娘さんの2人が体を支えないと歩けなくなってしまいました。
介護保険サービスを利用することになり、ケアマネジャーから週4日のデイサービス利用を勧められました。機能訓練に力を入れているデイサービスで、介護者の負担となっていた入浴も週2回行うことができました。
歩行器で再度歩けるようになり、以後はデイサービスを週2日に減らしました。「歩く力を保ち続ける」ために散歩なども生活に取り入れ、現状を維持できるように心がけています。妻や娘さんが体を支えるような身体介護が激減し、腰痛なども改善することができました。
体の不安・解決法②:介護事業所から介護技術を学ぶ
家族は介護の初心者で、介護技術を学ぶ機会はなかなかありません。そのため、介護サービスを提供している事業所は、家族向けに介護技術を指導してくれる場合があります。ケアマネジャーを通じて、利用中の介護サービス事業所に依頼してみましょう。
ケース2
ベッドから車いすに移乗させる必要があるAさんを、息子さんは力任せに介助していました。ある日、腰を痛めてしまったことをきっかけに、訪問介護を利用することに。ヘルパーはベッドサイドにある手すりを使い、声の誘導と軽く手を添えるだけで、Aさんを車いすに移乗させました。
息子さんは訪問介護事業所にお願いし、ヘルパーが行っていた技術を指導してもらいました。以後、息子さんは腰を痛めることもなく、在宅介護を継続することができました。
体の不安・解決法③:ストレッチやトレーニングを生活に取り入れる
日頃からストレッチを習慣にしたり、スポーツジムに通うなど、気分転換も兼ねて体を動かす機会を作っておくと良いでしょう。介護が大変になってくると、気持ちが内向きになり、体も強張ってしまいます。血流が悪くなることで肩こりや腰痛など、体の弱い部分に痛みが生じることもあります。
何をするかは、自分の興味があることや楽しいと思えることがいいでしょう。気持ちや体をリセットするつもりで、時間や曜日を決めて体を動かす習慣を身につけましょう。
ケース3
認知症のCさんを介護している妻は、Cさんがデイサービスに行っている間に、週1回のペースで地域の体操教室に通うようになりました。家でも教えてもらったストレッチを行うようになり、肩こりや腰痛が軽減してきました。何よりも、体操教室で同じように介護をしている友人ができ、おしゃべりでリフレッシュすることが楽しみとなりました。
介護負担から生じるー気持ちの不安・解決法ー
介護が必要な親と同居している場合は、ほぼ毎日介護に関わる場面が出てくるかもしれません。自分の時間が取れず、外出などの予定も介護次第になると、精神的な負担や不安が大きくなっていきます。
負担軽減のために介護保険サービスを利用しても、介護関係者との人間関係を構築しなければならず、気を遣うことで気持ちが疲れてしまうこともあるでしょう。
離れて暮らしている場合は、親の状況が確認できない不安が常にあるかもしれません。家の中で倒れていないか、食事は十分に食べられているか、認知症であれば火の不始末や近所とのトラブルを起こしていないかなど、考えればきりがありません。
さらに、介護者が50~60代になると、更年期の症状と介護が重なることがあります。これにより体調のコントロールが難しくなる人も珍しくありません。また、家族の中には子供が一人っ子で協力者がいない場合や、義理の親の介護、子育てと介護のダブルケア、仕事と介護の両立など、多岐にわたる状況を抱えている場合もあります。
精神的な不安に対しては、以下の解決方法を参考にしてみてください。
気持ちの不安・解決法①:介護保険サービスを利用する
肉体的な不安と同様に、精神的な不安にも介護保険サービスの利用が効果的です。デイサービスやショートステイの利用で介護から離れる時間を持つのも良いですが、訪問介護の利用も気持ちの支えになります。
家に他人が出入りするようになりますが、介護関係者はより良い理解者となります。信頼関係の構築は一時的な負担となりますが、介護のプロからのアドバイスや支援は精神的な不安や負担を和らげてくれます。
ケース4
認知症のDさんを介護している娘さんは、忙しい朝の介助が負担でした。マイペースなDさんの身支度に時間がかかり、仕事に遅刻することもありました。時にはDさんを責めて怒鳴ってしまうこともあり、自己嫌悪に陥ることもありました。
そこで、訪問介護のヘルパーに来てもらい、起床からデイサービスに送り出すまでを任せることにしました。Dさんはヘルパーと気が合うようで、娘さんが対応するよりもずっと早く身支度ができるようになりました。娘さんは遅刻することがなくなり、気持ちにも余裕が出てきました。
気持ちの不安・解決法②:毎日誰かが安否確認できる体制にしていく
遠距離介護になると、親の状況が見えないことで不安が高まります。特に認知症介護になると、電話で話が噛み合わなかったり興奮状態になっていたりすると、急いで帰省しなければならないかと、気持ちが焦ってきます。
そのような状況の場合は、毎日誰かが一度は様子を見てくれるような介護体制を整えておくと良いかもしれません。
ケース5
離れて暮らすEさんは軽度の認知症です。息子さんは無事に過ごしているかが心配で、Eさんに携帯電話を持たせて毎日電話をしています。しかし、携帯電話を使いこなせないEさんは電話にうまく出られず、息子さんの不安はますます強くなりました。
そこで、ケアマネジャーの勧めもあり、火・土曜日はデイサービス、木・日曜日は訪問介護、その他の月・水・金曜日は配食サービスを利用することにしました。高齢者向けの配食サービスは安否確認も含まれており、手渡しが原則です。これにより、毎日誰かが様子を確認し、異変があればケアマネジャーや息子さんに連絡が入る体制にしました。
気持ちの不安・解決法③:体調を安定させるケアができるようにする
高齢者の体調を安定させるには、以下のことが大切になります。
- 1日に水分を1,500ml以上飲む
- 1日の食事は1,500Kcalを確保する
- 便秘にならない
- 1日30分程度のウォーキング、もしくは30分程度の体操を行う
- 規則正しい生活を過ごす
- 薬の飲み忘れを防ぐ
これらの管理が不十分になることで体調が不安定になり、認知症の悪化や低栄養、持病の悪化、転倒など、さまざまなリスクが生じます。
普段の生活や食事を整えることは非常に重要で、介護の基本となります。
ケース6
認知症のFさんはトイレの場所がわからず失敗したり、下剤が効きすぎて便を漏らしてしまったりと、排せつに関するトラブルが多くなっていました。同居で介護をしている息子さんは排せつ介助が苦手で、とてもストレスを感じていました。
そこで、自立支援介護の「4つの基本ケア」を積極的に行うデイサービスに通うことにし、介護職員からのアドバイスで水分を多く取り、下剤をやめて自然排便となるように食事を調整しました。
水分や食事を整えることで認知力が改善し、トイレの場所に迷うことがなくなりました。下痢をすることもなくなり、息子さんが便の後始末をするような事態はなくなりました。
Memo
自立支援介護の「4つの基本ケア」とは、国や介護業界で注目されているケア方法で、「水分・食事・排便・運動」を人間の体の仕組みを理解した上で行う理論的なケアです。
最後に
介護者が感じる「体の不安」と「気持ちの不安」について、解決方法を紹介しました。介護は心身に大きな負担を伴い、特に50代以降の介護者にとっては、自分自身の体調や病気の不安も重なるかもしれません。
これらの不安が軽減できるように、適切なサポートや介護保険サービスの利用、ケアマネジャーや介護関係者と連携できるようにしていきましょう。