在宅での認知症介護は思うようにいかないことも多く、症状が進行すると目が離せない状況になることも珍しくありません。
認知症の症状を改善するケアが行えれば落ち着いた生活を維持できますが、家族だけで行うことは難しく、介護サービスを利用しながら症状を安定させていくのがベストとなります。
今回は認知症介護に特化して利用をおすすめできる介護サービスを紹介していきます。
この記事でわかること
- 認知症介護が大変な理由がわかる
- 認知症介護に適した介護サービスがわかる
- 家族でも取り組める認知症ケアがわかる
認知症介護が大変な理由
認知症の方は周辺症状が出現すると、介護負担が一気に重くなります。周辺症状とは不安や抑うつ、徘徊(はいかい)、暴力や暴言、せん妄や妄想、強い拒否などの症状で、家族が落ち着かせようとしても難しい場面が多くあります。
認知症の症状が強まると、在宅での認知症介護は以下のような困難さが生じます。
時間的に拘束される
周辺症状が頻繁に出現すると、いつ何が起こるかわからないため、常に見守りが必要になることがあります。あるいは、夜中に起きて騒いだり、大きな声を上げたりするなど、近隣に迷惑をかけたり、介護者の睡眠に影響が出ると、家族の緊張感も高まり、常に不安を抱えることから気持ちが休まらなくなります。
行動の予測ができない
周辺症状で落ち着かなくなると、行動の予測が難しくなることがあります。突然の怒りや強い不安の訴え、家の中を歩き回ったり、外へ出ようとしたりなど、介護者はその都度対応しなければならず、心身ともに疲弊してしまいます。
説得や理解が難しい
認知症の方が混乱しているときは説得や理解を求めても難しくなります。例えば、服薬や入浴などに強く拒否を示すことがあり、その理由もあいまいでつじつまの合わないことも少なくありません。何を伝えても理解できず、やり取りの中で介護者が理性的に対応できない場面も出てくるかもしれません。
このように認知症介護は家族の力だけで解決できないことも多く、心身への負荷も大きいことから、介護サービスの利用は必須となります。
仕事と認知症介護を両立している場合は、日中は仕事に集中し、夜間はしっかり睡眠を取れる体制を整えるために介護保険サービスを利用しましょう。
認知症介護と相性のいい介護サービス
通所介護(デイサービス)
介護施設に通いで利用するサービスで、半日型であれば3~4時間、1日になると6~8時間程度の滞在時間となります。介護サービスの中でも多くの方が利用しています。サービス内容は施設によって異なりますが、以下のような特徴があります。
- 自宅から施設まで(往復)、車で送迎してくれる
- 身体機能の維持・向上を目的とした機能訓練が受けられる
- 食事、入浴、服薬、排せつに関することなど、日常の世話を受けられる
- レクリエーションやイベントに参加できる
- 看護師による健康チェックが行われている
通われる方の状態によって必要なケアを受けることができます。施設によっては寝たきりの方でも入浴できる設備があり、医療依存度が高い方でも受け入れているところもあります。
他の利用者と交流する機会にもなるので、社会性を保つために利用する方もいます。
介護者が働いているのであれば、8時半頃のお迎え、18時頃の帰宅といった予定を組める場合もあり、長時間利用することで介護負担を軽減できます。
認知症対応型通所介護(認知症高齢者を対象としたデイサービス)
サービス内容はデイサービスとほぼ同じですが、専門スタッフによる認知症ケアを受けることができます。利用するには医師から認知症と診断された方に限ります。
通所介護との違い・特徴は以下の通りです。
- 定員が12名以下
- 介護職員1人当たりの利用者数が少ない(通所介護よりも人員体制が手厚い)
- 認知症に特化した研修を受けたスタッフから、専門的なケアを受けられる。
認知症の方は騒がしい環境や大人数だと刺激が多すぎて、落ち着かないことがあります。少人数でゆったりとした環境で、穏やかに過ごせるように手厚い介護を提供しています。
施設の責任者は都道府県で実施している認知症対応型サービス事業管理者研修の修了が義務付けられているため、専門的な認知症ケアの提供が期待されています。
※認知症対応型サービス事業管理者研修は、認知症の方が自立した生活を送れるよう支援する方法や事業所の適切な運営方法を学ぶための研修です。
小規模多機能型居宅介護
「通所(デイサービス)」や「泊まり(ショートステイ)」、「訪問(ホームヘルプ)」と、3つのサービスを利用できます。24時間365日対応で「小多機(しょうたき)」とも呼ばれており、以下のような特徴があります。
- 通所、泊まり、訪問のサービスをひとつの事業所で受けられる
- デイサービスは午前のみ・午後のみなど短時間利用も可能
- 3つのサービスを同一事業所で受けられるため、どれも顔見知りのスタッフが対応してくれる
- 利用料は介護度による定額料金(月額制)
- 状況に応じて柔軟なサービスを組み合わせられる
介護に疲れたときや仕事の都合で介護ができない場合に、泊まりのサービスが受けられます。精神的な負担の大きい認知症の介護者にとって、頼もしいサービスです。
遠距離介護で認知症の親が一人暮らしをしている場合でも、デイサービスに来なければ訪問介護でヘルパーが様子を見に行くこともでき、柔軟な対応が家族の安心感につながります。
短期入所生活介護(ショートステイ)
一般的にショートステイと言われているサービスで、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)などへ入所して、日常生活の援助や介護を受けられます。
在宅介護では急な冠婚葬祭や介護者の体調不良、仕事と両立しているのであれば出張や繁忙期など、一時的に在宅介護が難しくなる場合があります。そんなときに強い味方になってくれるのがショートステイです。
- 最短1日から短期間で施設に宿泊できる
- 連続して最長30日まで利用可能
- 介護や生活支援、機能訓練が受けられる
- 介護者のレスパイト(休息・息抜き)を目的に利用もできる
認知症介護は精神的なストレスを抱えやすいので、毎月一定期間をレスパイトとして予定していくのも良い方法です。
ショートステイの申し込みは2~3カ月前から申込受付を開始しているケースが多く、地域によっては希望者が多いため、予定していた日程で押さえられない場合もあります。特に年末年始やゴールデンウィークなど予約が取りにくくなる時期もあるので、早めに計画を立てるなど、担当ケアマネジャーと相談しながら利用していきましょう。
認知症対応型生活介護(グループホーム)
認知症の方を対象とした少人数で共同生活できる入居施設です。
専門の教育を受けたスタッフが生活をサポートしています。利用するには医師から認知症と診断された方に限ります。
- 1ユニット5~9人(原則1施設2ユニットまで)
- 1ユニットに個室やリビング(食堂)、トイレ、キッチン、浴室がある
- 家庭的な生活空間を意識している
- スタッフが24時間常駐している
認知症の方は身体機能が安定している方が多いため、認知症対応型生活介護では生活上必要な介助は最低限とし、自立を意識したケアが中心となります。
できることは自分で行ってもらうのが基本なので、食事の準備や盛り付け、掃除や洗濯、花や育てている野菜の水やりなど、各自が役割を持って生活しています。
Memo
認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型生活介護(グループホーム)は「地域密着型サービス」です。
地域密着型サービスとは、自治体の指定を受けた事業者がその地域住民を対象として提供する介護保険サービスです。現在住んでいる地域(住民票がある地域)以外の利用は原則できません。
住み慣れた地域でいつまでも生活できるよう地域住民のために提供しているサービスです。
家族でもできる認知症ケアを知る
そもそも周辺症状が軽減する(あるいはなくなる)ケア方法もあるため、介護者が知識を深めることも重要です。この方法は「自立支援介護」や「4つの基本ケア」と言われ、一部の介護施設で効果を上げています。
周辺症状が改善する「4つの基本ケア」は以下のようになり、水分をしっかり摂るだけでも落ち着いてきます。
- 水分 1日1,500ml以上
- 食事 1日1,500kcal
- 便秘の解消(できれば下剤は使わない)
- 1日2kmのウォーキング、または30分程度の運動
介護サービスを利用しながら4つの基本ケアを行っていくと、周辺症状が改善していきます。可能であれば4つの基本ケアを実践している介護サービス事業所の利用が望ましいですが、残念ながら少ないのが現状です。
サービスを利用する中で、水分だけでも1日トータル1,500ml以上になるように事業所へ依頼する方法もあります。
注意
水分制限のある方は、医師の指示に従ってください。
詳しくは別記事で解説しているので、ぜひお読みください。
まとめ
認知症介護は介護保険サービスを利用しながら、精神的な介護負担の少ない生活をパターン化することが重要となります。
それには介護から離れるまとまった時間を確保していくのが望ましく、特に仕事と介護の両立者には必須となります。
地域によっては地域密着型サービスの空きがなく、利用できない場合もあります。担当ケアマネジャーと相談しながら空きが出るまでは通所介護(デイサービス)を利用するなど、最適な選択ができるように相談を重ねていきましょう。