「ワンオペ介護」という言葉を耳にすることが増えていないでしょうか。
最近はワンオペ介護と仕事を両立するケースが増えており、多くの課題が表面化してきています。
ワンオペ介護の深刻な課題
ワンオペの語源は「ワンオペレーション」で、飲食店やコンビニなどの営業を従業員が一人で行うことを意味する言葉です。そこから、さまざまな事情から一人で子育を行う状況をワンオペ育児と言うようになりました。
ワンオペ介護も同様の意味で、身内などに頼れる人がおらず、一人で介護を行うことをいいます。
ワンオペ介護は増えていく
少子高齢化の影響で、在宅におけるワンオペ介護は増加していくと予測されています。
一人っ子や独身の場合、介護が始まると負担が1人に集中してしまいます。兄弟姉妹がいても「住まいが遠く離れている」「子どもがまだ幼い」などの理由で協力したくてもできない状況も考えられます。
身体的な負担が大きくなる
ワンオペ介護は必要な介護や家事などをすべて1人で担うため、身体的な負担が大きくなっていきます。トイレ介助や車いすへの移乗、入浴介助、歩行介助などは腰痛や肩こりを引き起こしやすく、体の不調に悩む人が少なくありません。
普段の家事にしても食事は毎日欠かせませんし、買い物や洗濯も適度に行う必要があります。やりきれなかった家事は休日にまとめて行うとなると、絶え間ない介護も重なり「休息」を取る隙間がなくなってきます。
精神的に追い込まれやすい
介護を要する人が認知症を発症していれば、「目が離せない」状態になることで時間的に拘束されます。排せつや入浴などの介助が気持ちの負担となることもあるでしょう。
ワンオペ介護になると時間が拘束されても、苦手な介助であっても、誰にも頼れず1人で対処しなければならないと思い、限界まで頑張ってしまう傾向にあります。
次第にストレスが大きくなることで自分自身の気持ちがコントロールできなくなり、「介護うつ」や「虐待」に発展する危険性が高まってしまいます。
ワンオペ介護と仕事の両立
状況をさらに深刻化してしまうのは、介護者が働いている場合です。
夜中のトイレ介助や寝具・おむつ交換などがあると、睡眠時間が不十分となります。疲労や睡眠不足から集中力が低下し、仕事のパフォーマンスが落ち、さらに注意力の低下からミスが増えたり、思わぬ事故を起こす可能性も高まります。
人によっては職場に迷惑を掛けている負い目から、介護離職に振り切れてしまうこともあります。介護のために仕事を辞める人は年間約10万人で推移しており、収入が途絶えることで経済的な不安を抱えることから、深刻な社会問題となっています。
ワンオペ介護と仕事を両立するポイント
働きながら1人で介護を担うことになったら、必ず利用して欲しい制度や心構えをお伝えします。
ポイント1:地域包括支援センターに相談する
介護が始まったら必ず地域包括支援センターへ相談に行きましょう。
地域包括支援センターとは介護・医療・保険・福祉の側面から高齢者を支える総合相談窓口で、どの地域にも設置されています。
高齢者に関わることであれば何でも相談でき、適切なアドバイスや介護保険の利用につなげるサポートをしてくれます。介護が始まっていない段階でも不安や心配事があれば相談に応じてくれます。
ワンオペ介護と仕事を両立する場合は初動がとても重要になります。相談の段階で自分自身が「ワンオペ介護者」であることを伝え、早い段階で介護の協力者とつながっておきましょう。
ポイント2:介護保険サービスを利用する
仕事と介護を両立するためには、介護保険サービスの利用が必須となります。2000年から始まった介護保険制度は、利用者(介護を受ける人)が要介護認定を受け、必要なサービスを1~3割の費用負担で利用できます。
【在宅介護で活用できるサービス例】
訪問介護(ホームヘルパー)
自宅を訪問し、身体的な介護や家事支援をしてもらえます。
通所介護(デイサービス)
日帰りの施設で機能訓練・入浴・昼食・レクリエーションなどを提供してくれます。
短期入所生活介護(ショートステイ)
介護施設に最短1日から宿泊でき、必要な介護や生活支援が受けられます。
福祉用具貸与・福祉用具購入
電動ベッドや歩行器・車いすなど日常生活に必要な用具がレンタルできます。排せつなどに関する福祉用具は購入費が補助されます。
※一部、サービスの利用に条件があります。
認知症などで日中目が離せない状況であれば、仕事とワンオペ介護を両立することが難しくなります。そのような場合はデイサービスを連日利用する方法もあります。介護保険サービスは介護を要する人の状態や介護者の状況により、サービスを組み合わせて利用できます。
Memo
ある認知症の方は、月1回の通院以外は毎日デイサービスを利用していました。本人が特に負担を感じていなければ、このような利用方法も問題ありません。
介護者の仕事が土日休みであれば、しっかりと休めるように土日営業しているデイサービスを利用することも良い方法です。
ポイント3:介護休業制度等を利用する
厚生労働省は「介護離職ゼロ」を掲げ、仕事と介護の両立をしやすくするための施策として「育児・介護休業法」に基づく制度を打ち出しています。
勤務先に制度がない場合でも、法に基づいて利用できます。
制度を利用するためには、勤務先に介護をしていることを伝える必要があります。職場の上司や人事・労務課などに相談し、必要に応じて制度を利用していきましょう。
注意
介護休業制度等を利用して長期間休みを取り、介護に専念することがないようにしましょう。介護者自身が直接介護を行うようになると、それが日常化し抜け出せなくなります。介護は介護保険サービスを使い、プロに任せるのが、働きながら介護を継続する秘訣となります。
ポイント4:頼る・任せる・依存する
「介護は親孝行」「親の介護を子が担うのは当たり前」と思い、誰にも相談せずに介護がスタートするケースは少なくありません。
しかし、少子高齢化の現代では担う側の負担が大きく、特にワンオペ介護はあっという間に限界となってしまいます。
介護者自身の生活や仕事を犠牲にすることなく、介護は地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、「頼る・任せる・依存する」つもりで関わっていきましょう。
※ケアマネジャーとは、要介護・要支援認定を受けた方のケアマネジメントを行うスペシャリスト
ポイント5:自分を優先した生活スタイルを維持
介護は「介護を受ける側」を中心に生活を組み立てる傾向が強く、介護者への配慮は二の次になることがあります。
そうなると介護者は仕事への目標が崩れ、楽しんでいた時間が失われ、気持ちに余裕がなくなっていきます。介護を受ける側との関係も悪化してしまうかもしれません。
そのような状況に陥らないためにも、介護を受ける側と自分自身の生活を分けて考えるようにしていきましょう。自分の生活を優先し、元気でいられるような介護スタイルを考えていくのです。
離れて暮らしているのであれば、無理に同居する必要はありません。もともと同居しているのであれば、極力介護に関わらなくて済むような体制を作りましょう。
介護に関わる関係者(プロ)に介護者のできる範囲を伝え、無理のない体制を構築できるよう協力を仰ぎましょう。
まとめ
ワンオペ介護と仕事の両立は、「介護は全面的にプロに任せる」「介護保険サービスをフル活用する」というマインドで関わっていきましょう。
大切なのは、介護者自身が落ち着いて仕事と介護を両立できる環境を構築するために、介護のプロに依存して任せることです。