認知症を発症すると、水分補給に問題がある方が続出します。その理由は自分で「水分管理」ができなくなるからです。
在宅で介護をしているほとんどの人も、水分の重要性について理解していません。認知症の方を担当しているケアマネジャーでさえ、「水分をよく取ってね」と言いますが、正確に1日どの程度の水分を取っているかを把握するには至りません。
今回の記事では、認知症高齢者が効率よく水分補給できるようになる「水分管理の方法」をお伝えしていきます。
この記事でわかること
- 水分摂取に対する疑問が解消する
- 飲みたがらない人に飲ませる方法がわかる
- 水分摂取の管理方法と注意点がわかる
水分摂取の疑問や不安
高齢者は1日に1,500ml以上の水分を摂る必要があります。特に認知症の方は水分補給が不十分になると落ち着かない症状(周辺症状)が悪化していくので、水分管理は非常に重要なポイントとなります。
しかし、水分摂取については以下の疑問や不安の声もよく聞かれます。
1,500mlも飲む必要があるの?
高齢者に必要な1日の水分量が1,500ml以上だと伝えると、「そんなに飲めない」「多すぎる」という反応が多く返ってきます。結論から言うと、1,500mlは適正量で、必要不可欠な量とも言えます。
1日に体内から排せつされる水分量は2,400~2,800mlとなり、失われた量を補給していかないと脱水を起こしてしまいます。
水分でお腹がいっぱいになり、食事が食べられなくなる
このような心配もよく聞かれますが、食事の前に極端に多くの水分を摂る必要はありません。1日を通して1,500ml以上飲めれば良いので、心配であれば食事前は少なめに調整してみましょう。
水分が適度に摂取できていると意識がしっかりするので、噛む力が強くなり、唾液の分泌も良くなります。誤嚥(食べ物が誤って気管に入ること)も改善されるので、食事時間を楽しめるようになります。
水分を多く摂ると、夜間のトイレが増えるのでは?
結論から言うと、日中の水分摂取量を増やしても、夜間のトイレには影響がありません。
水分不足は脳への血流を悪化させ、意識をぼんやりさせてしまいます。
昼間に居眠りすることが増えることから、夜間の睡眠が浅くなり、尿意を感じるとすぐに目が覚めてしまいます。
認知症であれば、「トイレまで我慢できない」「排せつの仕方がわからない」などのトラブルも重なり、介護者の負担も増えていきます。
日中に必要量の水分をしっかり摂ることで意識がはっきりし、活動性が上がってきます。全身の血液循環が良くなり、尿も活発に作られて排せつされます。
そのため夜間の尿量が減り、トイレで起きることも少なくなります(もしくはなくなる)。
飲むのを嫌がる、すすめても飲まない
水分を摂るように勧めても、少量しか口に含まない、あるいは全く飲もうとしないことがあります。そんな場合は以下の方法を試してください。
- 好きな飲み物を取り入れる
昔好んでいた飲み物や、普段飲まない飲み物を出してみると良いかもしれません。熱い緑茶が好きかと思っていたが、冷えた麦茶に変えたらよく飲んだ…なんていうケースもありました。
ただし、ジュースなどの甘い飲み物ばかりにならないように注意しましょう。糖分の取りすぎは血糖値を急速に上昇させ、インスリンが大量に放出されます。血糖値が急降下するとまた甘いものが欲しくなり、悪循環に陥るため、甘い飲み物は嗜好品程度にとどめていきましょう。
- ちびちびと、少量しか飲まない
飲み物を勧めると飲みますが、一口でやめてしまう方です。この場合は根気よく、飲む回数を増やしていきます。
小まめに飲むよう促していくと、しだいに「ゴクゴク」と飲めるように変化してきます。
少量ずつしか飲まない方に水分を摂らせるのは、家族介護者にとって負担となります。介護保険サービスを利用し、デイサービスなどで「飲む習慣をつけさせて」と要望を伝え、任せるのが良い方法です。
- 食べる水分も取り入れる
水分を摂る方法は飲み物だけではありません。食べる水分として寒天ゼリーや心太(ところてん)があります。寒天は食物繊維が豊富で水分もたっぷり含まれています。便秘解消にも役立つのでおすすめです。
その他、経口補水ゼリーも軽度の脱水や認知症で落ち着かない症状が出ているときに活躍します。
水よりも補水効果が高く、体内への吸収スピードも早いので、下痢や発熱時の応急処置としてストックするとよいでしょう。
経口補水ゼリーはカリウムや糖分が含まれているので、腎臓病や糖尿病などで摂取に制限がある方は医師にご相談ください。
水分摂取の管理方法
1日1,500ml以上の水分を摂るために、どのように管理していけばいいでしょうか。
水分摂取のスケジュールを立てる
1日にどのタイミングで水分を摂るか、スケジュールを立てると管理しやすくなります。
1回の飲水量を200mlにすれば、1日8回で1,600mlになります。1回150mlであれば、10回で1,500mlとなります。
朝から就寝前まで回数で管理すると、意外と簡単に必要量の水分を摂ることができるようになります。
決めたカップで計量していく
いつも使用しているカップを計量しておき、カップ1杯×回数で管理すると計量しやすくなります。
湯呑やマグカップといった種類があれば、それぞれのカップに注いだ水分量を調べておくと記録が楽になります。
15時ぐらいまで多め、夕方からは少なめの配分
夜のトイレが心配であれば、15時ぐらいまでに多めの配分とし、夕方以降は少なめで調整するとよいでしょう。
夕方になると認知症の落ち着かない症状(周辺症状)が悪化する場合は、それまでに摂っている水分が足りていないかもしれません。夕方までの摂取量を増やす工夫が必要です。
起床直後に水分を摂る
就寝中は水分を摂らないため、血液が濃縮された状態になります。朝に脳梗塞が多いのは、体内から水分が抜けて血流が悪くなることも原因とされています。
起床したら、まず「コップ一杯の水」を飲むようにしましょう。さらに、起床直後の冷水は腸を刺激し、便秘解消にも効果を発揮します。
水分摂取で注意すること
- 水分制限がある方は、医師からの指示に従ってください。自己判断での水分増減は、病状悪化につながる可能性があるので、注意が必要です。
- 糖尿病や利尿剤を服用している方は、排出される尿量が増えてしまいます。1日の水分摂取量は1,800mlを目標にしてみましょう。
まとめ
認知症の方は水分が症状を左右するので、非常に重要です。落ち着かない症状(周辺症状)以外にも、意識がぼんやりしていたり、意欲や活動性の低下、歩行が不安定など、いつもの様子と違う場合は水分不足を疑い、速やかに水分補給をしてください。
高齢者であれば認知症の予防にもつながるため、意識して水分を摂るように心がけましょう。